鐘の鳴る音が聞こえる。学校以外でこんな音を聞くのは久しぶりだった。人々は私を避けながら道を進んでいく。時折声をかけてくる男性がいたけれど、すこし睨むとすぐにどこかへ行ってしまった。すこし傷ついた。でもこれから二人と合流しなければならないからこれでいいのだ。 昨日、お嬢から無中をもらった。そういえば刀なんて扱ったことがなかったのを思い出して、外で軽く振ってみたら・・・驚きすぎて笑えた。
さて、約束の時間はさっきの鐘が知らせてくれた。少し遅れるのだろうか。でもそういった連絡はない。 「なあ、まだ行かないのか?」 「ひゃあ!」 後ろから耳にささやくように、息を吹きかけながら喋ったから変な声がでてしまった。思わずしゃがみこんだ私を犯人はクスクスと笑っている。 「もうっ、光さん!」 立ち上がり、振り返る。昨日染めたのか、色を抜いて茶色い髪を後ろで軽く結い、白いシャツに黒のパンツ。カーキ色のコートにシンボルマークのピースを咥えているのが神楽光さん。 「まあまあ、いいじゃないか。」 「七さん、ごめんね」 眼鏡に白髪ショートカット、黒いと思ったら、裏は紫のリバーシブルになっていると思われるダウンジャケットを格好よくきたのが光さんの弟である神楽心さんだ。心さんはあの骨野郎とは違って暴走することのない紳士な鬼だ。しかし未だに姉の光さんから離れないというシスコンっぷりが最大の弱点だ。 「二人とも遅いですよ」 「遅くはない。時間ピッタリだからな」 そうなのか、それならば何もいえなくなってしまう。それにしても二人とも背が高い、光さんは170は軽く越しているんじゃないだろうか?私なんてそこらへんにいる子と大差ないっていうのに、これは不公平じゃないかな。まあ私がどう取り繕ったって、あらゆる点で光さんに勝てる要素はないのだ。気楽に行こう。 「ま、いいですけど。じゃあどうします?」 そうだな、と呟くと、タバコが一気に短くなり、反比例して灰が多くなった。煙を吐き出すと同時に灰がぽとりと落ちる。 「ゲームセンターってところに行ってみたい」 「はいぃ!?」 思わず叫んでしまった。なんでゲームセンター?っていうかなんでいきなり遊ぶ気満々なんですか?いや、でもこれも一つの選択肢なのかもしれない。調査といっても、現場にいくわけじゃない。だから人が集まる場所にいくのは妥当なところではないだろうか、と思った。でもなんで・・・まさか・・・まさかね。 「なんだ、だめなのか?ゲームセンター」 ゲームセンターと言っているだけなのに、格好いい。無駄な格好良さだなと思った。 「いや、いいですけど。場所知ってるんですか?」 「まさか、そのためにお前がいるんだろう」 頭を軽く小突かれた。普通に痛いよぉ。 う〜ん、確かにそうかもしれない。昨日の夜、お嬢は私にチャンスをくれたと思っていた。それもある、でもそれだけじゃない。この街は私がかつてある程度足を運んでいた場所だから案内役がいないといけない。ただでされ光さんたちはこういった場所にくればこそ、くまなく探索するようなことをするとは思えないから。 「じゃあ行きますけど、へんなことしないでくださいよ」 「ああ、頼むよ。じゃあ心行くぞ」 「わかってるよ」 光さん達はなにか合図を送ったように思えた。今から調査が始まる。気を引き締めていかなければ!
◇ 「さ〜て、次はどこ行こうかなぁ」 「光さんいい加減にしてください!」 私の叫びが夜空に消える。あの後、ゲームセンターにあるゲームを一通りプレイし、ほとんどのゲームで記録を総なめにした挙句、「つまらん」とギャラリーを一蹴。最後の締めとしてプリクラをやり、ご満悦な光さんだったが、結局遊んで終わってしまった。 それからも、ボーリング、ブティック、カラオケ、エトセトラエトセトラ・・・。これまでの3時間弱、遊んですごしただけだった。 「もう、これじゃあ何をしにきたのかわからないですよ」 「何言っているんだ。一番はしゃいだのは七、お前だろう」 「ぐ・・・」 反論できない。ボーリングもカラオケもデパートも本当にひさしぶりに入ったからつい熱がはいってしまったのは認める。でも! 「なんかそう仕組んだように思えるんですけど」 「・・・」 うわっ黙った!これは由々しき問題じゃないかなぁ。 「姉さん意地悪がすぎるよ」 そこで心さんが間に入ってきた。 「え?どういうこと?」 「七さん、黙っていたけど、遊んでいるように見えてこれも意味のあることだったんだ。最初の集合場所からゲームセンターはほぼ街の正反対の位置にあった。そこから時計方向に店をまわって行った。もちろん人の多いところからね。そうして街全体を調べていたんだよ」 「ああ、その半分は通りだ」 そこで新しいピースを咥える。 「私がどうして心を推薦したのか。一つはまあ言うことを聞きやすいというのもあるが、大きな部分は私との意思疎通がはかれやすいのもある。そして二つ目。心の能力、知っているか?」 「いえ、まだ半分くらいの人の能力すらわからないです」 「ふむ、まあそうか。で、だ。心の力はちょっと特殊でね。私達の身体機能は人間の約4〜5倍程度だと言われている。だが、心は感覚が私達の10倍以上ある。これが心の能力”感覚強化”だ。お前とは似て非なる力だな」 「つまり、視覚、聴覚といった五感・・・いえ、第六感までの感覚機能が向上しているんですよ。ただ、常時発動しているのが弱点ですがね」 これはなんとなくわかった。より遠くを見ること、聞くこと、感じることができるというわけか。じゃあ私とは違う。私は体の変化と強化だけだ。感覚なんてものはどうにもできない。 「まあそういうわけだ。で、残りの半分なんだが。今朝、一つ重大なことが起こった。」 珍しく真剣な顔。光さんが真剣になるほどのこととは一体どういうことだろうか。 「私達の同胞が男3人に女2人が行方不明になった。」 「え!?」 確かにそれは重大なことだ。人間よりも長生きするといても、絶対的に数が少ない私達にとって死はともかく行方不明という自体はかなり深刻だ。しかも今回の件に重なっているということは無関係だとは考えにくい。 (・・・・ん?) 一瞬視界のすみのよく知った顔を見た気がした。でもまさか今この場にいるのはおかしい。 「そう、思っているようになんらかの関係性があるはずだ。連続殺人事件にこちらの行方不明。そして昨日の天野の言葉もそうだな。ん?二人ともどうした?」 光さんの言った“天野”という単語に反応したのは私だけじゃなかった。 「七さん。もしかして、天野くんを見ました?」 どうやら心さんもセンパイに気が付いていたみたい。でも、どうやって気がついたんだろう。私の位置からしか見えないはずなのに。 「一瞬だけどそんな気がしたの。でもどうしてわかったの?」 心さんは腕を組み、右手を口にあててなにやら考え始めた。どういうことだろう。 「心、考え事は移動しながらしろ!七、天野はどっちに行った」 「あ、こっちです」 と、光さんの後方を指差した。でもちらっと見ただけだし、距離も結構離れていたから見間違いだと思う。でももし、センパイがいたら・・・。
“天野零に気をつけなさい”
ふいに昨日のお嬢のことばが頭をよぎる。 でも昨日の今日だよ?まさかそんなことあるはずないよね? ね・・・センパイ。
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