「どういうことだ!」 机から鈍い音がした。 「何のことかしら」 「しらを切るな!」 どんなに大声を上げたり威嚇してもお嬢は手にティーカップ持ったままで、まるでこっちがおかしいと言わんばかりにお嬢は冷静だった。 昨日、オレと千早が受けた任務は亡者の始末だった。けどそこには魔法剣士であるアレイスがいた。そしてオレと千早は傷を負わせることすら満足にできない結果をだした。ところがそこに篭原と秋葉の二名の登場で追い返すことができた。 しかし、オレが鬼に成ってからの5年間、他の鬼と組んだことは幾度となくあったがけど、助けにくるなんてことは一度たりともなかった。だがそんなことはどうでもよかった。実は篭原と秋葉はアレイスとラックの存在をしっていて、昨日あの場所に現れることすら知っていたのだ。もちろん二人が知っていてあの場所に現れたということならば、お嬢の命令にほかならない。つまりオレと千早はかませ犬だったわけだ。オレはともかく千早は明らかにアレイスぐらいの相手では歯が立たない。もし篭原と秋葉の両者の登場が遅ければオレも千早もやられていたかもしれないのだ。 「言えよ、何を考えている?」 「何も。それより任務ごくろうさまでした。」 「何が亡者の始末だ。あきらかにおれ達をはめただろう」 無言。 オレは舌打ちをして、部屋から出て行った。 一体何がどうなっているんだ?部屋からでて、もう一度思案することにした。 徒歩 オレがこの世界に足を踏み入れたからは、魔女の相手がほとんどだった。ほかに相手といえば亡者や愚者といったどうでもいいクズばかりだ。だが、最近の魔女の様子はおかしい。まあそれはだいぶ前からわかっていたことだ。いたるところで魔女が現れるたびに俺たちは狩り出されていたのだから。ならなぜおかしいといえば、たとえばアレイスの存在。そしてお嬢の秘密主義がさらに厳しくなったことだろう。もうオレみたいな新人には何一つ教えてくれそうもないと思う。 「ふう」 ため息を一つついてオレはそこで考えを改めることにした。 「別にいいんじゃないか?」 そう、どこで何が起きようがどうってことはない。殺せる相手がいるなら、そこに行って殺すだけだ。なにより俺たちはそういった存在なのだから。 もうこの件に関しては特に考える余地なしと決め込んで、部屋に戻ることにした。
◇ 「それで居場所は突き止めたの?」 その一言で彼女は萎縮した。彼女にとって目の前に人物はかなう相手ではないからだ。だが報告しなければならないことはあった。 「いえ、ただ篭原の力でまもなく発見できるかと」 そこでそれはため息をひとつついた 「全く、せっかく2家も許可してやっとなの?これは時間の問題ではないのよ。だけどこの気を逃せばあの方の復活は5百年は遅れるでしょう。いいこと?何があろうとあれを手中に収めなさい。最悪あなたの存在がばれてもかなわないのよ。」 「はい」 ただ、返事することしかできない。 その姿を見て、目の前の人物は大きく笑った。 「まあいいわ。でもあなたが前線にでることは間違いではないのよ。だってあなたなら目撃者なんて残さないものね、だってあなたは・・・」 彼女は最後の言葉だけは耳に入れたくはなかった。 ただ歯を食いしばり、我慢した。 そう、仕方がなかったのだ。 だって私は未完成の存在なのだから・・・
◇ 獅堂暁は一人呼ばれ、部屋の前に来ていた。 ノックを一つし、ドアを開いた。 そこには、一人の少女の姿があった。少女はいつものように一番奥の机に座っていた。でも今日はいつもより機嫌が悪いようだ。けどそんなことをいちいち気にかけるようなことでもない。獅堂は何も言わずにソファーに腰掛けた。 「今日は何のようでしょう?」 体にかかる重圧がさらにました。すこし性急すぎたのかもしれないと思った。 しかしお嬢はいつもの口調で言った。 「相手の所在がわかりました」 「え!?」 思わず立ち上がった。この3年間、まったくといって良いほど相手の情報がわからなかったのに、今になってどうして簡単にわかってしまったのか?それともようやく努力が実ったというべきか。どちらにせよ驚きを隠せなかった。 「その場所は?」 「ええ、どうやらN県にある教会にいるようです」 お嬢の口調がすこし濁った。確かにN県には複数あるが、言い辛くなるほどの事情を持った教会といえば、まずあそこしかない。理由の一つとしては、そこはこの国で一番大きいといわれているからだ。つまり、どうして魔女たちは敵であるはずの教会にいることができるのか不思議でしょうがないということ。さらに教会というなは、僕たち鬼にとってもよろしくない場所だ。下手に手をだせばこちらが不利になるのは明白だ。 「どうします?」 「それについては、後ほど手を打つつもりです。もちろん穏便に」 「でも、どう考えてもこちらが不利ですよね?」 「わかっています」 やっぱり今日のお嬢はどうもおかしい。姿勢は普通だが、眼にかげりが見える。それに話し方に覇気がない。まあわからなくもない。さっき僕が言った不利というのは、教会からみた魔女と鬼の優劣にある。 僕たち鬼は見た目は人間と変わらないが中身は完全に化け物だ。しかし魔女は選ばれた一握りの人、要するに外も中も人間と大差ない、ただ神秘に近すぎ過ぎただけにすぎないのだ。 だからお嬢の言いたいことはわかる。化け物と特殊な人間、教会がどちらに肩をもつかなんて言わなくてもわかる。 それにしてもさっきお嬢は対処法は考えてあるといった。ならなんで僕が呼ばれたのだろう?・・・そうか。 「僕・・・ですか?」 「話が早くて助かるわ」 やっぱり。でもこれも仕方がない。お嬢の立場上、その存在を公にはできない。それはたぶん鬼の中で僕が一番わかっているだろう。 「もちろん、付き人を何人か付けます。では後ほど詳細を伝える人を向かわせますので」 そういって机にあった資料に眼を通し始めた。これ以上はなすことがないようだ。だけど、これ以上知らぬところで色々と動かれてもこちらが困る。やっぱり聞いておいたほうが良いだろう、万が一ということもある。 「僕のことはわかりました。それで、残りの3名はどうするのですか?」 お嬢の手が一瞬止まった。僕はそこを見逃さなかったし、お嬢もわかっているはずだ。よかった、このまま何も言わずお嬢のいいようにさせていたらあの三人がどうなるか心配だ。 「どうするのですか?」 もう一度、強調するように言った。 「暁はヴァルプルギスの夜はしっていますか?」 ごまかしているのだろうか?それでもお嬢は嘘や無駄を言う人物ではない。話に乗ることにしよう。 「ヨーロッパに伝わる風習ですね。一般的に5月ころに行われるもので、魔女の祭りとも言われているはずです。たしか、この国だとお盆に当たりと思いますが」 「詳しいのね。そう、ヴァルプルギスの夜では向こう側との境が薄くなるのよ。今回の、いいえ。5年前、何故多くの魔女がこの国にやってきたかわかるかしら?」 「魔女狩りの残党が流れてきた、と聞いています。けどさっきの話を聞けばその話が大いに関係していますね。でもそうだとしても、もう時期は過ぎていますよ」 「話はここまでにしましょう。すこし喋りすぎたようです。あとのことは確証がないでうすから」 そこで席を立ち上がる。自室に戻るみたいだ。でもまだ終わってはいない。 「まだ先ほどの質問に答えてもらっていませんが?」 ため息が聞こえた。 「心配しなくても大丈夫よ。ただ、また零を使うしかないのよ、あの子に魔刃を渡してしまったから。」 「でも」 「本当に大丈夫だから。最終的には私がでます」 「え!?でもお嬢の体は」 「本当に大丈夫だから。暁、ありがとうね」 お嬢は、すこし微笑んで似合わない台詞をはいた。でも辛そうな顔を隠せなかった。珍しいこともあるのだなと思った反面、今回は大きなことになると確証した。 でも僕は見ることしかできないのだと、部屋を出て行くお嬢の背中を見て思った。
◇ 夏の終わりが迫った8月下旬。時刻は月がまだ昇りきっていない9時といったところだ。しかしもうこの時間は昼の暑さが抜けてどこか涼しげだ。すでに鈴虫のなく音がかすかに聞こえ、蝉の屍をそこらに転がっていてもう秋が目の前に迫っていることを実感できた。 とはいうものの、先週あんなことがあったせいで時間の流れがすこし速く感じている。それに七と千早が一緒にいるせいで緊張感がまるでない。それもこれも、何の任務かほとんど知らされていないせいだ。とりあえずガイのところへ集合だ。 「珍しいですね、三人でお出かけなんて。最初の任務以来だと思うんですけど、センパイもそう思いません?」 「いいからその手を離せ。そしてその眼もやめろ」 七の殺意を殺意で返す。七はチェッと言いながら口を尖らせて腕から手を離した。でも体の距離は変わってはいない。まあいいだろう。七の殺意はもう慣れてしまったし、触れてさえこなければどうってことはない。 気がつくと、千早がジト眼でこちらをみていた。 「なんだよ」 「別にぃ。ただこの間とは態度がぜんぜん違いますね」 尻尾をつかまれた猫のような気分になった。この前七の部屋で柄にもないことを千早に見られたことだろう。やっぱりあれはオレにとってかなり嫌な思い出の一つになっている。本当に柄にもないことをするもんじゃない。その証拠に横の七は満足そうな顔でうんうんとうなずいている。 「どうでもいい、早く行くぞ」 「天野さんが照れてる〜」 「行くぞ!」 後ろからキャーと二人の声を無視しながらオレは早足でその場を退散した。本当に面倒で、ダルイ。 それにしても、今日は何の任務なのだろうか?さっき獅堂を見つけたが、他の鬼となにやら話し込んでいた。どうやら別に任務らしい。となると本当にこの三人で行くことになるのだろうか。さっきの七の言うとおり、三人で任につくことは珍しいケースだ。それにオレ達三人は、他の鬼と比べれば間違いなく新人だろう。 まあ、とにかく集合場所はガイさんのところになっているから行くしかない。
ガイさんのところにたどり着くと、そこには意外な人物が待っていた。 赤い袴に白装束の出で立ちはまるで巫女のよう。肩甲骨まで伸びた後髪に、前髪をピンでとめているあの姿はオレ達鬼の管理人のお嬢こと、鬼無里紅葉だった。 オレはあまりの驚きにそのばに立ち尽くした。そんなオレを追い越していった二人は、まるでかわいい縫いぐるみを見つけた時のような鬼声を上げてお嬢に抱きついた。 「何々このコスプレは?お嬢ったらどうしてこんなかわいい?」 「千早ちゃん。これは正装って言ってコスプレなんて言っちゃだめだよぉ。でもこれはかわいすぐるぅ!センパイもそう思いませんか?ほら頭なでなで〜」 「あぁ!七ちゃんばっかりずるい!私も頭なでるの〜」 今までのお嬢の威厳はどこへいったのやらと思うほど、二人はスイッチがはいったようにお嬢をなでまわしている。そんなにいいものなのだろうか。それよりも、そんな恐れ多いことをするお前たちが怖い。なんてことを胸にしまっておくことにしよう。 気がつく。さっきからお嬢は何一つ動いていないことに・・・。 すると突然お嬢の体は薄れて消えていった。 「時間の無駄です。行きましょうか」 後ろを振り向くとそこにはお嬢が立っていた。一瞬で移動したというよりはすでにそこにいたように感じ、さっきのは幻覚だったのだと思った。それでも服装は変わらない。 再びお嬢を見つけた二人はさっき同様お嬢に抱きつこうするが、一定距離以上に近づけなかった。どうもさっきの幻覚といい、今のもそうだが、お嬢はなにか術を使うのだなと思った。 「お嬢、ちょっとまて、なんであんたがいるんだ?」 「愚問ですね。魔女ごときに惨敗し、体が治りきったばかりの貧弱な鬼のお守りが必要なのは当然のこと。それにこれから向かう場所はあなたたちでは生きて帰ることは無理なのよ」 返す言葉もなかった。まあ確かに最近は負けっぱなしだ。だけど魔女ごとき?あのアレイスを知ってのことだろか?それともお嬢にとって魔女の存在自体が別にどうってことない相手だというのだろうか。すこしお嬢の力を見たくなった。 お嬢はオレ達三人を無視するかのようにガイさんのところへ足を向けた。 「お、お嬢ちゃんか、話は聞いているぜ。通んな」 「ガイ、迷惑をかけますね」 「良いってことよ。それにアレだろ?今回はお嬢チャン直々に出向ねぇとだめなんだろ?」 「ええ、でも仕方がないのです。それでは門をお願いしますね。」 ガイさんと快活に挨拶を交わしたお嬢はこちらを向いた。 「手筈はととのいました。まず更科七、朝倉千早、アミュレットを」 二人はさきほどとはうって変わって言われたとおり素直にお守りをだした。それは神社等で売られているお守りそのものだった。 お嬢はお守りを受け取ると、新しいお守りを渡した。あれはオレが見てもわかる。さっきのとは次元が違うということを。どんな概念が施されているかわからないが、相当強力なものだ。そしてこれから向かう場所は、それほどまでに苦戦を強いられるところなのだなと感じた。 そしてお嬢を先頭に門をくぐっていった。 誰も話すことなく、誰かが何をするわけもなくオレ達はお嬢についていった。お嬢の殺意だけが、ただ三人を突き動かしていた・・・。
◇ ひどく気分が憂鬱だ。やっぱりこんなことを引き受けるんじゃなかったと後悔するけど、他にやる人がいなにのならしょうがないと思った。 でもこれから向かう場所を思えば憂鬱にならないわけにはいかなかった。 それもこれもこの二人のせいなのだろうか。 「どうしたん?暁さんよぉ」 「疲労」 ため息が聞こえてしまったのか、お嬢が僕につけた付き人の二人が心配そうに話しかけてきた。 一人は着物を着た和服美人の「お万」、もう一人はアロハシャツに赤髪、サングラスをかけたいかにも軟派な雰囲気をかもしだしている「経若丸」だ。 二人ともお嬢の配下で、僕自身も何度か挨拶程度はしている。お万は口を開けば一言で済ましてしまうような話し方をするけれど、実に要領よく動いている。そして経若丸は、一言でいうならばつかみどころのない鬼だ。 この二人の関係は良くも悪くも「微妙」な関係だった。なんというか二人は、助け合っているのか、それとも無視しているかどうかあやふやだった。 今こうしている間、いや今のいままで二人で話している姿は皆無だ。でも完全に無視しているようにも思えなかった。 「いや、なんでもないよ。時間だ、行こうか」 「ほんなら行こうか、大将」 「大将?」 「ああ、今回は獅堂さんのところのお坊ちゃんの手伝いだといわれましてね。まあいうならば暁さんは俺達の隊長、いや、大将だと思いましたんよぉ」 どうもどっかの方言が悪いように混じっているような気がしたけれど、そこには触れないほうがいいと思った。 「まあ君がいいならそれでもいいよ。」 気がつけばお万の姿はなく、前方にうっすらと人の姿が見えた。どうやらすでに門のほうにいってしまったようだ。 「なんだ万のやつ、愛想のないやっちゃなぁ」 「経若丸、君はお万とは仲がいいのかい?」 いい機会なので聞いてみることにした。するとどうもそのことについては本人もよくわかっていないらしく、うんうんと唸っていた。 「そうなぁ。オレもあいつもこの世に生まれた理由は紅葉はんのためやし?まあそれは生まる前から決まっていたんよ。でもそのことに関してはなんの不満もあらへん。それはお万も同じでないんかな。オレとあいつの存在理由ってやつはつまるところ紅葉はんの役に立つって言うのが全てやな。だからせめて表面上はお万と折り合いをつけているつもりや、そうしないと紅葉はんがいやな顔をするからな、まあお万が変なことをしたら即刻あいつの首もらうがな」 重い口を開けたら、漂々と明るい声で話ははじめた。しかしその内容と、雰囲気は平安からはだいぶかけ離れたところにあった。つまり、経若丸はお嬢のためになることしかやらないと言った。そしてお万も同じ考えなのだろうとも。しかし獅堂は、そう悪い関係ではないと判断した。それはお万のことを話す経若丸からは殺意が感じられていたからだった。彼ら鬼たちは、興味の対象には必ずといっていいほど殺意が芽生える。根本が善意や悪意、好意といったものであろうとも、必ず表にでてくる最終的な意は殺意なのだ。 この任務について、仲間割れだけはないだろうと獅堂は思い、すこし安心した。 でも、そこまで心配している二人に嫉妬していた。しかし本人は気がつかなかった。
門につき、手早く処理をすませた。どうやら天野達は先に出発したらしい。 だが、どうしてだろうか。獅堂はさきほどから何かがおかしいと感じているのだけど、何がおかしいのかさっぱりわからない。けれど、胸の奥で不安が渦巻いているのがよくわかった。 これからのことを少しばかり考える。お嬢から渡された資料は特に問題はない、あるとすればこれから向かう場所だろう。だがそれは最初からわかっていたことだ。一緒についてくる仲間も安心できる部類にはいるだろう。時間もそう大した問題でもない。 なら何が不安なのだろう? 「大将、大丈夫か?」 「ああごめん。大丈夫だ、行こう」 「結果優先。心配無用」 どうもこの二人には大抵のことは見抜かれているようだ。 お嬢に頼まれた大切で重要な任務だ。これ以上状況が悪化しないため、お嬢の体面のため、今できる最良のことをするしかない。 そう胸に刻み込み、獅堂はお万、そして経若丸とともに門をくぐった。
◇ N県は、特にめぼしいものあるとは到底思えない場所だった。僕はただひたすら歩いた。街を抜け、森と線路の間にある次元の狭間のような道を歩き続けた。 その間はただずっと雲で見えない夜空を見上げた。雨でも降りそうな気配だった。 森の横をある程度進んだところで、石段が見えた。 「ここか、行こう」 振り向きもせず僕は前へ進んだ。石段を一段一段登っていくたびに、足が重くなっていくのがわかった。どうやらここは霊的要素が強いようだ。もちろんそんなことは後ろの二人もわかっているだろう。 だけど僕たちのような存在は本当ならこの程度の霊力はどうってことない。なぜなら僕たちのような鬼は、これを栄養としているからだ。 「大将。食っていい?」 やはり経若丸は予想通りにお腹が減ったらしい。 「だめだ。とにかく、これから会う人たちは僕たちとは違って中身は普通の人間だ。日中に活動し、日が沈めば寝る生き物なんだ。せっかくこんな時間にあってくれるのだから、これ以上の無駄時間は禁物だよ。これが終わったらこんど何かおごってあげるよ」 「え?マジで?やったね!大将って太っ腹なんやな」 「まあたまにはそんな気分になってもいいだろう。もちろんお万もね」 「感謝」 そこで石段の上から明かりが見えた。教会だ。 白いコンクリで固められた教会はとある国を思わせた。 周囲は、もちろん森で囲まれていた。しかし、入り口付近にはたくさんの花であふれかえっていて、古臭い雰囲気も、近寄りがたい感じもしないいい雰囲気なのだろう。 獅堂達が階段を登りきると、シスターが一人立っていた。 「夜分遅くに申し訳ありません。私たちは・・・」 「存じております。どうぞこちらへ」 言い切る前に言葉を遮られた。そのシスターはまだ若いようだったが、どうもせっかちなのだろうと感じた。そして一つお辞儀をすませると、音もなくドアをあけて中に入っていってしまった。 「ここで立っていても仕方がない。お万、経若丸」 「御意」 「経若丸、どうした?」 「なんでもねぇっすよ」 すると経若丸はどんどん先に行ってしまった。どうも先ほどのシスターの態度がきにいらなかったらしい。よくわからなかった獅堂だったが、横でお万がすこし笑っているのがみえ、ああいう態度もそう悪くないことなのだとわかった。 そして獅堂とお万も、後に続いて教会に入っていった。 なにもかも計算され、動かされているのは彼等か、魔女かそれとも・・・。 いずれにせよまだこの段階では何一つわかりはしなかった。
|
|