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作品名:不能者 作者:キョウ

第3回   ナイト
現在は草木も眠る丑三つ刻。その名の通り、周囲からは人の気配はおろか、虫の音や風に揺れる木の音すら聞こえない。ただ、目の前の闇から聞こえる波音だけが、耳に届いた。
今オレ達は浜辺にいる。そして今までファミレスでオセロをしながら時間を潰していた。
途中に何回も、いや止まることを知らない口から質問が来たが、極力答えないようにした。

 そして、時間も迫ったので、千早の「次こそは!」「最後のお願い」を振り切って勝ち逃げしてここまで逃げおおせた。

「ほら、いつまでもむくれてないで行くぞ」
「負けなかったから命令ですか?いいきにならないでください」
 命令した覚えは全くないが、何故か不機嫌になり、ふん!と言って、ずんずん先を歩いて言ってしまった。
「おい、待てよ。そろそろ時間だぞ」
すると千早はぴたりとたちとまる。
「天野さん。今日のターゲットは亡者ですよね?」
「ああ、そうだが・・・ん?」
 今日は満月がやけに輝いていて、目の前の光景がはっきりと見えた。
 そこにはいつかみた純白の鎧と剣を武装し、異国を思わせる金髪で、その神々しいまでの髪を束ねている騎士がいた。アレイスだ。
(殺せ)
彼女はすでにこちらに気がついているはずだが、まるで無視しているかのように夜の王者である月を眺めていた。オレは思わず歓喜のあまり叫びそうになった。
(殺せ)
しかし、今叫ぶようなら、彼女はこちらを向くだろう。オレは血が逆流していると錯覚するほどの心臓の高ぶりと、頭が割れそうなほどの頭痛が彼女を殺せとオレを脅迫するが、眼前の光景を見たい一心で抑えた。
「・・・さん。あま・・・ん!」
うるさい!乱すな!壊すな!オレの邪魔するな!オレは音源の方へナイフを走らせた。手応えは感じないがどうでもよかった。
バチン!
 と音がして、気付けばオレは砂浜に倒れていた。頬が痛い。どうやら殴られたようだ。立ち上がると、千早は怒った顔をして、「しっかりしてください。あの魔女をみたとたん固まって、一体どうしたんですか?」といい。「天野さんはフォローお願いします。どうやらあの魔女、とんでもなく強いですよ。ほら」とアレイスを指差した。
 まだこちらを見ようしていないアレイスの足元には、今回のターゲットだった亡者が4体、解体されていた。
 千早はオレの返事を待たずにアレイスに向かって翔る。まだ若いから決して速い、とはいいきれないが。人間の性能を軽く凌駕しているのは明白だった。
 百M程度は離れていたが、数秒の間にすでに詰め寄っていた。そして右手には槍、左手にも槍をもっていた。初見だが話しには聞いていた千早の能力は「具現化」だ。思い描く物体を作り出す能力はかなり強いのではないだろうか。そして作り出した槍は、剣を武器とするアレイスにリーチの長い武器で挑むのは定石だろう。
 しかし彼女は魔女であり、魔女ではない。彼女に勝つならば、せめて剣術と魔力のどちらかを勝っていることが条件だと思う。
 ようやくアレイスがこちらを向いた。その時に先程の判断は間違っていたと気付いた。アレイスからは何の感情感じられない。その眼は虚、体から発せられる気は虚無しかない。敵を壊すことに何の躊躇いも感じさせず、まるで作業のようにさえ思え、いつしかその姿に自分自身を重ねて見えた。さらに手に持つ剣がまとう魔力量の多さが千早を凌駕していることは明白だった。
「戻れぇ!」
 勝てないと知り叫ぶが、聞こえなかったのか千早は槍を投擲し、残りの槍を両手に持ち直すと横に振り回した。正面からは点、横からは線が恐るべき速度でアレイスに襲い掛かる。
 オレではまず避ける事ができない連撃を、アレイスは剣を振り上げただけで無効化した。もちろんただ剣で弾いたわけではない。剣に纏った魔力をぶつけたのだ。それはまるで暴風であり暴力だ。
 もしや今の一撃で千早はやられたかと思った。
 金属音。アレイスは上空から降る槍を剣で弾く。すぐさま後ろに飛ぶが、追うように、そして仕留めるような矢が足元に突き刺さる。
 上を見上げると弓を持った千早が存在した。
 高い、20Mは軽く跳躍している。だがさすがに鬼の身体能力ではない。七のような能力でもないかぎりあそこまでの跳躍はできない。そうか、アレイスが放った魔力を使ったのか。
 だが上に飛ぶのは危ない。その証拠にアレイスの剣は青い光りを纏っていた。そしてアレイスは千早に向かって剣をふるった。
 次の瞬間、白い光が夜空を二分に分けた。
 さっきが暴風ならば今回は疾風、しかし威力はまるで弱まっていない。次こそはダメだと思った。アレイスが強いことは分かっていたがまさかここまでとは。
 ドクン。と鼓動が速くなる。(殺せ)。どうやら先程抑えた殺人衝動が再びオレの中でうごめき始めた。だがもう我を失うことはない。何の確証はないが抑えられるとわかる。
(殺せ)
ドサッと後方から何かが落ちる音が聞こえた。振り返ると身の丈ほどある大盾を持った千早がいた。しかし先程の攻撃で大分ダメージを負ったようで、盾は丸焦げ、服は所々焼けている。
「大丈夫か?」
駆け寄った。
「あの化け物は何ですか?もう・・・無理」
 荒い息遣いで答えるとその場にヘタリ込んだ。さすがにこれ以上は無理だろう。となるとオレが戦わないといけないことになる。まあ千早でどうにかできるものとは思っていなかった。さてどうしたものか。うん大丈夫だ、今の自我はオレのものだ。
 振り返るとアレイスはこちらに歩いてきた。さっきまで千早とやり合っていて、あれだけ の魔力を放っていながら力は衰えていないようだし、未だに眼は虚。オレの頭にキリングマシーンという単語がよぎる。どうやら生かしておくきはないらしい。それもそうだろう、前回はまあ色々と状況が違うから何事もなかっただけだった。
 全く、こいつのせいで謹慎処分を食らったのにまたこいつとやり合うなんて、なんて幸運だろう。ああ、殺したい。
「いいぜ、殺してやるよ」
 すでにナイフは抜いてある。
 現在は満月だが真夜中だ、しかも梅雨が明け、蒸し暑い初夏ということもあり、オレにとってはまあまあな戦闘環境だ。オレの能力を知っているアレイスならば、千早の時のように魔力自体は放たないし放てないはず。よって基本は肉弾戦になる。
だったら・・・。
 アレイスは歩みを止め、辺りを見た。異常に気付き剣を構えた。距離にして約20M、用心している。
 まあ当たり前か、何故なら周囲の温度と湿度を奪っているのだから。
 簡単に説明すれば、体内で熱発電しているわけだ。そしてオレのポテンシャルは常に最高状態を保ち戦うことができる。オレはこの戦闘スタイルの事を「ヒートモード」と考えていた。さらに言えばアレイスはオレの姿が視認できていない。光も吸収し、闇に紛れたからだ。
 さあ、はじまりだ。
 後方で砂がはぜる音がした。無視。
 オレは闇に紛れながら幾度となくナイフで切り付けるが、ほぼアレイスに弾かれた。だが1〜2割はどうにか当たる。
(どうしてだ!?)
 また弾かれた!いやちがう。これはオレが弾いているのか。あろうことかアレイスはオレの存在を感知し、先に剣を向ける。リーチの差で必然的に受ける側のオレは、攻めているのか守っているのかわからなくなった。しかし初動は明らかにこちらが上だった。それからしばらく討ちあうと気づいた。
アレイスはこちらと刃を交える瞬間。魔力を微量ながら放出している。オレにはそんなものは全て奪い取っている。だが放出時にわずかに光る瞬間、周囲に存在する物体はわずかに魔力光に反射するが、オレは光自体を吸収しているから反射しないし、できない。そして足場が砂という条件がオレの居場所を示していた。
(それでもこっちに分がある。)
そう、たしかに徐々にこちらの動きが看破され始めているがダメージは確かに蓄積されていた。その証拠にアレイスの鎧は切り傷があり、鎧の隙間から見える白い衣も何箇所か切った。だがまだ決定打は与えられない。オレは隙があるならば急所に一撃を打ち込むように立ち回っている。でもチャンスは一度たりとも訪れていない。それもそのはずアレイスは剣を上段に構えているせいで頭部はまず狙えない。よって頭部よりしたになるが、鎧が邪魔してうまく攻撃が与えられない。くそっ。
突如アレイスがこちらの位置を把握しているかのように飛び、剣を横に振り払った。その軌道はまちがいなくオレの首を狙ったものだった。
(やられる!)
間一髪のところでナイフではじき、オレは横に飛んだ。どうやら砂という足場がかなり悪い状況になっているらしい。さすがにオレはこれ以上の戦闘はつらい。これではまるで剣士と盗賊の戦いだ。いや、実際そんなもんだ。だったら今のオレには勝ち目はないというのか?
 ふん!勝ち目がないだけで殺す事はできるさ。
先ほどから微量だが溜め込んできた魔力がある。オレはナイフに自分の熱を叩き込むとナイフは熱をもった。そしてアレイスから奪い取った魔力をこめる。ナイフはまるで命を吹き込まれたように赤く光りだした。
(この光は・・・)
一言でいえばすごいとしかいいようがないくらい濃い魔力だった。このナイフがこんなに光を帯びたのは初めてのことで、先週の魔女の魔力も桁違いに多かったが、これは量ではなく濃度が半端ではない。
 このナイフを魔刃と化したからには先ほどの闇にまぎれるスタイルは行えなくなる。魔刃の力を維持するためには常に魔力をこめなければ成らないし、なによりナイフ自体の光で隠れようがないからだ。オレはヒートモードだけを維持したまま魔刃を逆手に持った。
「殺す」
砂を蹴る。風を切る。時間を縮める。距離を詰める。そして光を遮断した。
オレは近づいた瞬間、能力の範囲内の光をすべて吸収した。それは先ほどまでのは、光りが自分の体を反射しないように自分の体周囲すべてを吸収していた。そして今度は違い、俺の能力が及ぶ範囲すべて(半径25m)の光を奪った。そうすることで、すべてが暗黒に包まれ、オレも含めたすべての生物の視界からは光が奪われたことになる。はずだ。
きっとアレイスは急に視界が途切れたことだろう。だがそれでもあいつはオレの存在を感じ取ってしかけてくるだろう。だったら仕掛けるなら正面からの方がいい。
オレはそのままアレイスに向かって直線に突っ込む。
だが迷いなく、正確に脳天に向かって剣が即死の意味をもつ速度で振り下ろされた。だが想定の範囲内だ。体を回転させて避け、そのまま背後に通り過ぎる。そして魔刃をアレイスの後頭部に向かって投げた。
かすかな音とともにアレイスの頭部狙ったそれは間違いなくアレイスの頭部を突き刺す一撃であり、オレは勝利を確信した。
いきなり眼のまえで爆発が起きた。オレは腕で砂をやり過ごしたが、何が起きた把握できなかった。でもすぐにわかった。月明かりで砂埃が充満していることは明白で、爆発を引き起こしたのが誰なのかもはっきりと理解した。
(アレイス!)
剣を地面に突き刺し、両手を開いて地面に向けている。おそらく魔力自体を地面に直接ぶつけたのだろう。オレのナイフの行方は月の光で空にあるのがわかった。
 本当に化け物か!本来ならば魔力は魔法を使う原動力のようなものだが、こいつは魔力自体を使ってくる。だがそれは水鉄砲を持っているくせにそれを使わずに手で水をぶつけているに過ぎないほど効率の悪い行為だ。しかしアレイスの魔力量が桁違いすぎるのか、その魔力量だけで十分な威力を発揮していた。そのせいで詠唱なしで攻撃していると言った前代未聞の戦闘をしていて、さっきのオレの攻撃もそんな思いも寄らない方法で打破されたのだった。
 アレイスは剣を抜き、こちらに振り返る。オレはすでにナイフをもっていないから負けたと判断し、能力を解除していた。
「レイ、ここまでのようですね」
ここにきて初めて口を開いたアレイスの言葉は死刑宣告だった。殺したい相手に殺される。それも悪くない、そう思った。だが、無念があった。
「一撃で頼むよ」
「ええ、分かっています」
オレには直接攻撃しか通用しないから剣を握り、砂の足音を響かせながら歩み寄った。
ザン。とオレとは反対の方角にナイフが落ち、本当にだめかと思い、覚悟した。
「あっけないものだな。まるで茶番だ」
オレとアレイス、そして千早は突如現れた声の主の方を向いた。
この蒸し暑い季節に全身を黒いコートで覆った人物がいた。だがオレと千早はこの声の人物を知っていた。そしてそいつはフードを取ると、三十後半で渋めの顔立ちに、無精ひげを生やしたやつがいた。あいつもオレ達と同じ「鬼」であり、同類だ。
 名は籠原 煌。オレ達の12人のリーダー格だが、滅多なことでは表にでてこないやつで、オレと七、そして千早は新参者のため数回しか会った事がない。それは指令や報告はお嬢が担っているからだ。つまり今まで会う必要がなかった。だが何故今頃になってこいつがやってくる?まさか助っ人ってやつか?冗談!
「籠原さん。どうしましたか?おやおや」
籠原の背後からまた新たに助っ人が現れた。こいつも知っている。
秋葉 空。この真夜中では見えないくらいの漆黒のスーツ見た目三十路の女性も「鬼」だ。だがなぜ二人もきたんだ?しかも普段表にでてこない二人だ。籠原は基本的に任務や用事で留守にしているが、秋葉空は普段はいつも部屋に閉じこもっていると聞く。
だからオレはこの二人の力を見たことがなかった。一体どれほどの力を有しているのだろうか?代々鬼のシステムが息づく「籠原」と「秋葉」と両家だ。きっと強いにちがいない。けど一つ疑問が浮かんだ、どうして今頃になってだ?
「空、やるか?上玉だぞ」
「いやよ。今晩は満月なんですから」
何故に満月が出てきたのかいまいちわからなかったが。二人の話をよそに、新たな敵を目の前にアレイスを何のためらいもなく光を放出した。
しかし二人の目の前でアレイスの攻撃は無効化された。オレには秋葉空が一瞬腕を動かしたように見えた。あの光の一撃を片腕だけで無効化できるものなのだろう。もしそうならとんでもない実力ってことになる。
「向こうはやる気満々のようですね。仕方ありません、初撃だけお願いします。一撃でしとめます」
「向こうは傷を負っているが、まあいいだろう。」
ぐっと身をかがめた秋葉の手には武器は持っていないが手は黒く見え、グローブがはめられているとわかる。身体変化系の能力なのだろうか。
一方対峙しているアレイスは臨戦態勢のようで、体からさっきとは桁違いの魔力量があふれ出している。クソ!オレとの戦闘は全力ではなかったと言うのか!?
刹那。秋葉が消えた。
「ぐっ」
急にオレの体は重くなり、地面に押し付けられた。それはアレイスも同様のようで片膝が地についていた。いったいどういうことだ?さきほどの秋葉の台詞と今の状況、もしかして籠原の「能力」か?いや、それより秋葉が消えたというのにアレイスは体勢を崩したのはまちがいなく命取りになる。
あ。その瞬間、消えたと思った秋葉がアレイスの頭上に現れた。いくらなんでも早すぎる。通常の鬼の身体能力ではないことは明らかだ。
砂浜では想像もしないような轟音が響いた。先ほどまでアレイスがいた場所に直径5mほどの小さなクレーターができた。まるで漫画の世界だ。もう、どうにでもなれと思った。
「おや?これを避けましたか」
はるか遠くに白い鎧が放つ光沢が眼に入る。距離にして30Mは離れているだろう。あの1コンマの間にあの距離を保つのか、道理でオレでは勝てないはずだ。
そして秋葉なら勝てるだろう。なぜならすでに秋葉はアレイスに追いついていて。剣と拳の殺し合いが始まっていた。
アレイスの脅威の剣戟に魔力の暴走。そして秋葉の暴力による地獄の連撃は止まる事をしらないかのように続いている。アレイスの恐るべき速度で放たれる剣戟を秋葉は楽しむように、しかし紙一重で避け反撃をする。剣のなせる一撃必殺。拳による打撃のコンボの打ち合いはもはやオレの立ち入る隙はなく。オレは自分の非力さに腹を立てた。
「お前はまだ5年だろう。まだあれは殺せんよ」
籠原はいつの間にかオレの横で二人の殺し合いを眺めていて、その腕で千早が眠っていた。ごめん千早、忘れてたよ。
「小僧、そろそろ終わるようだぞ」
「え!?」
眼を凝らし、前方を見る。すでに一方的な展開になっていた。アレイスがやられていた。あの至近距離の戦闘においてオレの随意を許さなかった奴が、魔力量に物をいわせ、魔女であるが、魔女とは思わせないような異質の魔法剣士がやられていた。腹、脚、腕、体を殴られ、蹴られ、突き飛ばされており、すでに剣は離れた場所に飛ばされていた。だが頭だけはほぼ無傷を保っていたが、あれはいたぶっているようにしか見えない。もうやられるのは時間の問題だろう。
「見て置け、あれが本来の鬼の力だ」
すでに結果が見えている戦闘をみるのに何の意味があるというのだろうか。しかしアレほどまでに殺したいと思った相手を他人に横取りされるのは何故か我慢ならなかった。
気づけばオレはナイフの方に走っていた。
(オレが、殺すんだ)
ナイフを拾い上げ、二人の方に向かおうした。
だが、アレイスは秋葉の油断をついたのか一瞬の隙で、魔力で秋葉と距離とった。そして、右手の人差し指を自身の胸にあて、何かを呟く。刹那、アレイスが輝きだした。
 ああいった事をなんと呼ぶかはわからない。だが、あえて言うならば「覚醒」なのではないだろうか。

「秋葉、撤収だ」
アレイスの状態を見た篭原が大きな声で発した言葉は、撤退の一言だった。今のオレでもあのアレイスの状態は普通では勝てないことくらいはわかる。だけど・・・。
「ミス・ホワイト」
聞きなれない言葉が聞こえた瞬間、ふいにアレイスの周りに4人の魔女が現れた。四人とも、違う色の衣を纏っていた。よくみると、アレイスや前回の黒衣のやつよりも色がすこしかすんでいるように見えた。
「困ったものね」
「うわっ!」
「驚かないでよ、傷つくじゃない」
いきなり耳元でささやかれれば誰だって驚くわ!でも言わないほうがいいと思って口にはしない。けれど、いつの間にこっちに戻ってきたのだろうか、でもさっきの身体能力を見ていればこれぐらい距離はないに等しいのかもしれないと思った。
「まあいいわ。篭原、これは一体どういうこと?」
「見ればわかるだろう?それとも説明してほしいのか?」
見ればわかる?いわれたとおり見てみると、オレは驚きを隠せなかった。なぜならさっき現れた四人の魔女は、暴走しているようにしか見えないアレイスを押さえ込んでいたからだ。

「でも、あれってチャンスじゃねえの?」
「本当にそう思うの?」
「え?だって」
「篭原、説明してあげて」
篭原はいやそうな顔をしながら口を開けた。
「説明するまでもないと思うがな、まあいいだろう。小僧、どうしてあいつらはこちらを無視して自分たちの味方の人物を抑えているのだ?あれほど強大な力をどうしてこちらにむけない?単純な魔力量だけなら魔女の中でも群を抜いているであろうあの力を」
そこでオレはやっと気がついた。確かに強大な力を有していれば大きな脅威になりうるだろう。だけどそれは、その力を操れてこそだと思う。もしこの考えが正しければ、アレイスは、自分の力を制御できていないと見るのが妥当なのではないだろか。だからあの力を使ったときにあの力を制御ないし押さえ込むことができる魔女がやってきた。まあそんなところだと思う。
だけど・・・オレはやっぱり!
(殺したい!)
「あ、天野君!」
「ふん、青いな」
気がつけばオレは駆け出していた。後ろから変な声が聞こえたけれど、どうでもよかった。あの二人もこの衝動を持ちえているはずなのに抑えているようだ。でもオレは抑えることができなかった。いや、抑える気すら浮かばなかった。だからオレは武器も持たずこうして駆け出している。

零が接近してくることに気がついた4人内の魔女の2人は、作業を中断して身構えた。
音もなく、目の前にバリアが出来上がった。その形は魔方陣に近い形をしていて、見覚えがあった。
零は構わず突っ込んでいく。もちろん能力を発動したまま。本当なら、いつもならあの程度のバリアはいとも簡単に吸収している。でも今回はなぜか吸収できず、バリアに阻まれた。
「どう・・・して」
「ふふっ、あなた程度の鬼じゃ無理よ」
「なんだと!?」
後ろに飛びのき、声のする方向を向いた。
 そこには、前回の病院の件で現れた黒衣の魔女がいた。
 なるほど、と思いオレは歯噛みした。確かにこいつならオレの能力の大半を知っているから、何らかの対処法を講じてくるかとは思っていたけれど、こうも簡単、迅速に対処してくるとは思わなかった。
「そこをどけ!」
「あら?勝手に進めばいいのではなくて?」
チッとしたうちをした。先のバリアでわかった。オレにはこれ突破する手口がないのだ。オレの能力はあらゆる力を吸収することができる。しかしそれは放出または術者の手を離れた場合である。つまりこのバリアのようにわざと未完成にし続けているような代物は吸収することはできないのだ。
「相変わらず鬼というものは厄介だけれど、知ってしまえば対したことはないのね」
魔女は不敵な笑みを浮かべた。そしてアレイスを押さえ込んでいた魔女のうちの一人が黒衣の魔女に近づきなにやらささやいた。
そして黒衣の魔女は、前回と同じ暗黒の扉を出して、この場を退場した。
気がつけば、アレイスやほかの魔女の姿もなかった。
そして残されたオレは、未練を残したまま帰るしかなかった。
秋葉になにかを言われた気がした。けどそんなもの、耳に入ることさえなかった。


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