あの日、あの瞬間。心が音もなく崩れさった。段々と薄れていく思い出を必死に守るため、立ち止まってしまったあいつのため、その両方の原因に繋がる女の子のために、オレは人間を・・・やめた。 それからは、あの事を知った日から、決して普通の人とは交わることのない世界で時を過ごした。 だが、こんな風になってからの5年間は失敗に終わってしまった。 オレは、この先の生き方を知らない。飯食って、女やって、何かを殺し、寝る。ただそれだけの行動を繰り返し繰り返しの人生を送るのは苦しいだけではないのか。 一度調べ、聞いた事がある。オレ達はどれくらい永らえるのかを。500年だそうだ。寿命は人間の5倍、ならオレの容姿が5年前からほとんど変わっていないのも頷けた。 もちろん、致命傷を負ったり、栄養の不摂生などを行えば、それだけ早く死ぬことができる。 人と同じように土に還ることができる。それだけが、唯一人間に戻る方法。一度変化したものは、二度と戻ることは叶わない、それが生の行き交う世界。全てを創造し、全てを破壊して森羅万象を均等に、平等にするのが死の世界。 けれど、オレは二人がいなくなる瞬間まで、生きる使命があり、他者を殺し続ける義務がある。 けれど、それだけではないことを知った。 たった一つの存在に思い知らされた。 ああそうだ、オレはまだ死ねない。 存在を許された存在しない者。オレは0だ。
でも、周りが0じゃないってわかったから、今は昔よりだいぶ楽になった気がする。オレと繋がる存在が、1や2だったり・・・7だったから。オレはもう0じゃないんだ。 終着駅が見えてきた。ああ、今夜も月が綺麗だ。 やっと、おまえに手が届きそうだ。
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