激しく降りしきる雨と、濃く灰色に塗りたくられた綿菓子で蓋をされた様な重い雲。
後部座席では陽子と美保が仔猫の名前なんかをあーでもない、こーでもないと語り合っている。
微かに聞き覚えのある歌が流れるカーステレオに耳を傾けながら須藤は助手席から、街の流れを観る素振りをしながら、二匹との出逢いを考えていた。
二年前の同じ日に、須藤美保は、初めての子供を流産した。
そして数日前にもまた、美保は二人目の子供を流産している。
そして今日、一匹だけでなく、二匹の仔猫と須藤は出逢った。二匹はどちらも身を縮め怯えていた。 そして二匹とも須藤には放っておくことが出来なかった。
それはたぶん偶然なのかも知れない。 他人からすればたまたま迷子なのか捨て猫かも知れない二匹を須藤が見つけただけなんだと言われるかも知れない。
例えば現実がそうなんだとしても、須藤はその総てを運命だと信じようと思った。
例え誰かに笑われようと、自分はそうだと信じて二匹を育てようと思い初めていた。きっと美保も同調してくれる。
だってあんなに落ち込んでいたのに、今は笑って話せている。
「なんか運命的ですね」
!!?
運転席の高山が、不意にそう話し掛けてきて、須藤はまるで心の中を覗かれたようで、ドキッとした。 ひょっとして口に出してたか?
『へ?』
「二匹と須藤さん達ですよ。だって須藤さんが見付けなかったら、どちらかが死んでたかも知れないし、良くてもバラバラになってたかも知れないし。」
『ああ』
「須藤さんが二匹に出逢ったように、あの二匹も須藤に逢えたからお互いに出逢ったのかも知れないじゃないですか。それに僕もこうして須藤さん達と話す機会もなかったかも知れないし。三人の……いや一人と二匹の出会いが今日だけで沢山の出会いを生んでるんですよ、考えたら凄いですよ。」
涼やかな印象の高山が実はこれ程興奮していた事に須藤はビックリした。そして高山の発した言葉が染み渡る水の様に身体に染み込んでくる気がして、妙に嬉しい気分になった。
『そうですね、なんかありがとう。』
そして須藤は幸せな感覚が自分の身体を支配しようとしているのを押さえれずにいた。
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