「とりあえずは一週間ぐらい預かるからさ〜、時にダンナさん〜これからどうするの?」
櫻井医師の質問に須藤はすっかり混乱してしまった。 ひょっとして思っていたよりも重症で手術なんかが必要なんだろうか? それとも時間外だったから診察費が思っていたより高くついてしまったのだろうか? ひょっとして櫻井医師は須藤が夕食を済ませておらず腹ペコなのに気付いたのだろか?
「いやだからさ、二匹の今後だよ、貰い手探すの〜?それともお宅で引き取るわけ?」
そう言われて、初めて須藤は大切な事を忘れていたのに気付いた。確かに二匹にはこれからがあるのだ、具合の悪そうなのをほっとけずこうして病院に連れてきたのは良いもののその先をすっかり忘れていた。 櫻井医師の隣では美保が不安そうな眼で此方を見ている。 そして他の四人からも須藤の次の台詞に注目が集まった。
「あ〜なんだっ『先生、二匹は家で引き取ります。』 須藤は櫻井医師の言葉を遮り、はっきりとそう言ってのけた。
あの仔猫達を放っておけなかったし、須藤には二匹との出逢いがなにか運命的なものに思えたからだ。
「……あ〜そ〜〜、別に無理しなくていいよ、」
『大丈夫です。家のマンションは賃貸ですがペットはOKですし』
「そうか、そうか、……じゃあ、なんだ……ダンナさんの男気と二匹の可愛さに免じて今回はサービスでいいよ、そんかわし予防接種とかするからその費用だけ負担してくれりゃ〜」 「クソッ」
「あ〜〜櫻井先生、ひょっとして自分が引き取る気だったんじゃ!?」と須藤の横から志村が間髪入れずツッコミをいれる。
「バッバカ野郎、そんなわけねぇだろ、俺はなんだ、ちゃんと医者としてだなぁ」
「そんな事を言っても、耳赤いですよ院長。」
「うっうっせー、これは何だ、仕事のほつれだ、仕事にもそれぐらい頭働かせろ、志村。」
妙にムキになる櫻井医師にその場は明るい笑い声が響いた。
美保は須藤の言葉のすっかり安心しているように見えた。
そして暫くの談笑の後、須藤達は仔猫を櫻井医師らに任せ来たときと同じように、高山の車に乗り込み未だ続く豪雨の中、病院を後にしたのだった。
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