「いや〜〜スミマセンね〜〜看護師の人はこの雨で帰してしまって〜〜」 明るく清潔に掃除が行き届いた[櫻井動物病院]のカウンターで、左胸のネームプレートに【志村健太郎】と書かれた新人の医師は、ラグビー選手程もあろうか思われる大きな身体を豪快に震わせながら、受付を済ませようとする須藤の笑いかけた。
短く刈り上げた短髪に半袖のシャツから見える逞しい両腕、厚い胸板に、笑った時に見せる白い歯が爽やかさを感じさせるのだが、妙にハイテンションな語り口が、(ちょっとウザいなぁ)と須藤には感じさせていた。
診察室では、陽子と美保が院長の櫻井医師から二匹の容態の説明を受けている。 櫻井医師は見た目、190近い身長に坊主頭とまるっきりそちら系の人間に見える。 志村の説明によると無類の動物好きで、特に仔猫には目が無いらしい。
重厚な声で、顔を綻ばせながら時に赤ちゃん言葉で話す事が有るらしい。流石にお客が居なくなってかららしいが。
受け付けを済ませ、須藤はロビーで志村と陽子の担当作家である高山耕介と三人とで志村が用意した珈琲を飲んでいた。 高山はいかにも作家らしい細身で華奢な体格で、服装はこぎれいに着こなしていて、一見近より難い雰囲気があるものの、話をしてみると意外に気さくで一緒に連れてきたキャ バリア・キングスパニエルの【ルナ】を大切にしている事が知ってとれた。
話の内容は、櫻井医師が如何に動物に愛情を注いでいるかという志村の独壇場と化していたが、思いの外志村の会話の巧みさに須藤も高山も充分聞き入っていたのである。
そうこうして、志村の話が盛り上がり身振り手振りが大きくなって、さあこれから最高潮と云う時に、診察室の扉が開き、櫻井医師と陽子、美保の三人がロビーへと現れた。
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