涙に潤んだ目は、苦痛に歪んだ頭は、須藤の判断を鈍らせていた。
須藤はけして賢くはないと自覚していながらも、瞬間的な状況判断には自信があるほうだった。
しかしながら今、目の前で小さな声を上げる白い物体の判断には迷いが生じていた。
そんな中で、状況の判断が定まらないまま、無意識にその物体を抱えている自分にさらに困惑していた。
不意に両手に抱えられたソレを顔の前に持ってきて初めて何なのか理解出来た。
それは小さな小さな、白い仔猫だったのだ。
(ん?)
よく見ると、目は何とか開いていたが、たぶん産まれて幾日しかたっていないその白猫は、須藤の手の中で小さく震えていた。 か弱い命の鼓動がまるで掌から感じれる程、その何秒かで須藤の頭にはこの仔猫の命の灯火に警鐘がならされている気がしてならなかった。
須藤はバックからタオルを取り出すと白猫をそれで繰るんで、胸に抱えられながら豊かな体躯を必死に揺らしながらマンションへと急いだ。
先ほどの苦痛は須藤から消え、この仔猫を死なせてはイケないという気持ちだけが、その大きな身体を突き動かしていた。
そして…… もう一つの出会いの瞬間を経験する為に。
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