美保が黒い仔猫を顔の高さまで上げて、「貴女は今日からノワールよ。よろしくねノワール。」と話し掛けた。 『じゃあ、お前はバロンだな。』と須藤は白い仔猫を優しく撫でる。 二人は櫻井医師から育て方のアドバイスを聴き、紙袋を受け取った。中には仔猫の世話の仕方を綴ったNoteと粉ミルクが入っていた。 「じゃあ、なんかあったら何時でも連絡していいからさぁ。」 そう言うと、櫻井は優しく二人に微笑みかけた。 須藤夫婦は支払を済ま沢山の礼を言って櫻井動物病院を後にした。
家に帰るまでの道中。美保は二匹が入ったゲージを大事そうに両脇に抱えて、後部座席に座った。
マンションへ帰りつき、この日の為に買ったクッションに二匹を寝かせ、暫く二人はその寝顔を見つめていた。
ベランダに吊るした風鈴がチリンッと優しい音色を奏でていた。
夏はもうすぐそこに迫っている。
こうして二人と二匹の新しい生活が幕を開けた。
一年後、須藤智仁は両脇に荷物を抱えて、マンションへと急いでいた。
朝からの雨も、勢力を弱めたものの未だ降り続いている。
足元が濡れるのも気にならず須藤は大切そうに荷物を抱えて妻の美保と白猫のバロン、黒猫のノワールが待っているマンションへと急いでいた。
思えば一年間で様々な事があった。
ノワールの家出や、バロンとおばあちゃんの別れ。 カーテンレールを壊されたり。 辛いときに二匹が慰めてくれたり。
そして須藤はこれからも続く二人と二匹の日々を考えて顔が緩んでいた。
駅で櫻井医師に会った。どうしても来れないからと二匹へのプレゼントを貰った。
バロンには茶色のチェックの蝶ネクタイ型のリボンが付いた首輪。
ノワールには赤いリボンがついた首輪。
須藤はこれを付けた二匹を想像してワクワクしていた。
五階でエレベーターを降りて部屋へと向かう。
鍵を廻すと、玄関にバロンとノワールが座って待っていた。
どうやら、陽子と高山が来ているようだ。
リビングでは楽しげな会話が弾んでいる。
須藤を発見して足に絡み付く二匹を見ながら、須藤は今は自分は幸せなんだろうと、思いながら荷物をリビングへと運び談笑へと加わった。
また夏が始まろうとしている。
須藤は、きっと明日は晴れるだろうと不思議に確信した。
〜〜fin〜〜
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