初夏の薫りが立ち込め始めた、7月4日。 遅めの朝食をモ○バーガーで済ませて、車のドリンクホルダーにコーヒー味のシェイクを乗せると、車のエンジンをかけた。 ギュキュルルル… グキュルルル… どうやら車はやや不機嫌らしい。
(真面目に買い直さなきゃいけないかな?) 須藤はそう思いつつ、エンジンに再トライをかけた。 勢いよく踏み込んだアクセルと同時に大きなエンジン音をあげ車はようやく重い腰をあげ、起動体勢を整える。
「やったぁ」助手席では美保が片手にオレンジジュースを持って小さく歓喜の声をあげた。
須藤はタバコに火を着けるとシフトレバーをドライブに当て駐車場から発車した。 (この車の救いはエアコンが壊れてない事とオートな事だな)
と思いながら車を櫻井動物病院へと向かわせる。
「ねぇ、やっぱり二匹の名前、バロンとジジかな?」
『どうかな、でも志村も櫻井さんはジブリ好きだって言ってたから間違いないんじゃないか』
「やっぱり智くんもそう思う?それが堅いよね〜。」
どうして須藤夫妻がこんな会話に行き着くかと言うと、3日前に櫻井動物病院に二匹の様子を見に行った時に、 櫻井医師がとんでもない提案をしてきたからだ。
それは3日前の診察室での事である 『え?じゃあ二匹の名付け親にさせろって事ですか?』
「まぁ、なんだ…うん単刀直入に言うとそう言う事だね。頼むよ〜、治療費割り引きするからさ。」
『そう言われても……』須藤は思わず奥の志村に眼で助けを求めた、〔手に負えません〕とばかりに志村は両手を拡げて見せる。
と、須藤の横に立つ美保が口を開いた。 「じゅあ、最初の候補は先生のからって言うのじゃダメですか?」
「候補?」
「うん、だって気に入らないかも知れないじゃないですか?先生のつけた名前が良かったら直ぐに採用するし、ダメならこっちの候補をつけますから」
「オイオイ、じゃあ俺が不利じゃねぇか」
「だって、二匹とも家の子供ですもん、可笑しな名前じゃ嫌だし。」
「可笑しなって…ヨシッじゃあ気合い入れてつけるかぁ」
「ふふふ。じゃあ先生、頑張ってお願いしますね。」
とこんなやり取りがあった訳である。
『大丈夫かな?あの先生、凄そうなの用意してそうだし』
「そしたら、変えたらいいわよ。だからあの提案にしたんだし。」
『そうだよなぁ。おっ』
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