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作品名:二人と二匹。 作者:くだりゅう

第11回   〔二人と二匹〕act 11
須藤家には、車が一台ある。 去年久々にあった須藤の兄から譲り受けた使い古した、ダイハツのエスクードだ。

須藤は通勤には使わずに主に週末のちょっとしたお出かけに使っていた。


いわゆる、ポンコツだったから長距離の使用には問題があって、まさしくいざと言うときに使われていた。

須藤美保は、免許こそゴールド免許だったが、いわゆるペーパードライバーだった。大学をでてから働き始めて、当時の友達に誘われて時間がかかったものの友達の取得から五ヶ月して免許を取得した。しかし友達が免許取得から半年で、事故で亡くなる云う事件があり、運転が苦手だった美保はそれ以来、運転免許証は身分証明ぐらいにしか使用していなかった。


須藤の薬を買いに一階に降りて自転車置き場から我が家の車を眺める。何れこの車を運転する日がくるのであろうと予感がしていた。


昨日の櫻井動物病院は須藤家のマンションから、大体車で20分ぐらいだった。

自転車でイケない距離ではないが、なにせそこでの主役はあの二匹である。


やっぱり検討しとかねばなるまい。

(今度、練習しなくちゃ)

マンションの駐車場から歩を進めながら、そう思い始めていた。


(あっ名前考えなきゃっ。)

そう思い始めて不意に昨日の夕方までの自分と今の自分を比べて、不思議な気分になった。


けして、数ヶ月とは言え自分のお腹に宿した生命を失った哀しみが消えた訳ではない。


しかし、少しでも前向きになる為に時間が縮まったのは、多分あの二匹が一生懸命に生きようとしているのを見たからだ。

昨日ふいに陽子から言われた言葉を思い出した。


[今はさ、いっぱい泣いていいから。いつか前を向いて行かなきゃ、頑張ってた赤ちゃんも辛くなるよ。]


その時は、美保は陽子には自分の気持ちは分からないんだ。と思えていた。


ただ、今はやれるだけ前を向いて行こうと思えていた。もう少ししたらあの仔猫達の命を預かるのだから。


陽射しは、もうすぐ梅雨も終わりを迎えるのを知らせるように、強く美保へと降り注いでいた。


遠くで蝉の鳴き声が聴こえて様な気がした。


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