土曜日の昼下がり、うなされていたような、悪い夢でも見ていたような感覚の中で須藤は、不意に眼を覚ました。
枕元の時計を見ると時間は昼の1時47分を指していた。
まだ上手く頭の回らない思考の中で、昨日の事を思い出していた。
夢だったのかも知れない。ふと握り締めた右手には仔猫を受け止めた感覚がまだ感じられる気がした。
何かを忘れているような感覚に囚われながら須藤は美保の姿を探した。 どうやら寝室にはいないようだが、キッチンの方から微かに物音がする。
身体にはタオルケットがかけられていたが、まるで薄い鉄板ででも出来ているんじゃないかと思えるほど、不思議に身体が重い。
ベッドのサイドテーブルに置かれた携帯を観て、須藤はハッと今日が隔週の出勤日だと気が付いた。
(会社に連絡入れないと…)
必死に左手を伸ばして携帯を取ろうとして、上手く取れず落としてしまった。
(あーなにしてんだ)
すると、キッチンからバタバタと美保が寝室へと顔を出した。
「あっ智くん起きた?昨日あれから急に倒れたんだよ、会社には連絡しといたからね。今日はゆっくり休んで。後で薬買って来るから。」
「あっ熱はだいぶざがったわね。」 須藤の額に右手を当てながら美保はやや安心した顔を見せた。 「昨日なんて、39℃もあったんだから〜、とりあえず、着替えのシャツ持って来るから着替えましょ。」
どうやら須藤は昨日のバタバタの後でずぶ濡れの自分をほっておき過ぎて風邪をひいたようだ。
だんだんと意識の戻りつつある頭には勢いよく活動する洗濯機の音が聴こえてくる。
リビングに差し込む薄い光を見ながら、今日は晴れてるんだろうなと須藤は思えた。
「ねぇねぇ、櫻井動物病院から連絡あったよ、二匹とも落ち着いてるって。」
(ああそうか、良かった。)
『あ゛あ゛っ』 喋ろうとしたら喉が痛くて須藤が発した言葉は声にならずにいた。
「ああもう、無理して喋らなくていいよ、そうだ飲み物持ってくるよ。」
そう言って美保はまたバタバタとキッチンへと消えて行った。
須藤は普段よりゆっくり流れる思考の中で、昨夜の事を思い出していた。 夢じゃなくて良かった。
美保が持ってきてスポーツ飲料をゆっくり飲み喉を潤すと、一緒に美保が持ってきた解熱剤を飲んで、着替え済深い眠りに堕ちていった。
少しだけ身体が軽くなった気がした。
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