6月の激しい夕立に、靴とズボンの裾をびしょ濡れにされながら、須藤智宏は駅からマンションまでの道のりを雨の日の憂鬱な気分もなく嬉しそうに小気味良いリズムで急いだ。
6月27日は須藤にとって大切な子供達の御祝いの日なのだ。
一年前の6月27日須藤は運命的な出会いをする。
その日は、ちょうどその年から二年前に妻の美保が初めて流産をした日付だった。
そして運命の数日前、美保は二度目の流産をしていた。お腹の子は5ヶ月目だった。
先だって昼からの激しい雨は須藤の気持ちを一層沈ませいた。 今日には美保が病院から自宅に帰っているはずだった。
一度目の時、香保は気丈に明るい振りをしていた。須藤が帰宅すると泪で腫れて目を見せながら、明るく振る舞っていた。
今回は……医者から話を聞かされてから一度を言葉を発していなかったのだ。
駅を抜けると、6月の明るさと、重くのし掛かる様な雨雲の暗さで、須藤の視界はまるで灰色の様だった。
駅を離れた時から止まらない涙は、熱く須藤の頬を流れていた。
自宅へ着けば、今度は俺がしっかりしなければ。
そんな想いが須藤には溢れていた。だから…… それまでは。
傘も射さずにびしょ濡れになりながら、衛藤はマンションへの道を歩いて行く。
まだ笑うため準備が出来ていなかったから。
遂には道路の段差に足をとられ転んでしまった。 ちょうど近所の公園の前。幼い子供達がよく遊んでいる、小さな公園だ。
無力感に苛まれながら、体勢を立て直そうとすると、左前方から、ミ〜ともニ〜ともナ〜ともつかない鳴き声が聴こえてくる。
(ついには幻聴まで)
そう思いながら、頭を上げると、須藤の左目の片隅に小さな白い何かが確認出来た。
…………?
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