「お〜い誰か残ってるか〜」
そろそろ帰ろうと、机の整理をしていると、設計部の扉が開き、いつも定時で帰るはずの須藤さんが、隙間から顔を出した。
「あれっ須藤さん、珍しい〜残業っすか〜」 缶コーヒーを口から外して直巳が答えた。 「そうたんだよ、いつもの高川電機。納品でトラブってさ、おっ遠山〜まだ残ってたんなら戸締まり手伝ってくれよ。もう俺達だけみたいだからさ、樋口、まだ残るのか?」
『あっいえ、もう帰りますよ、そうだ須藤さん藤川町でしたよね?乗って帰ります?』
「えっ?マジ?助かる〜この時間からだと電車が少ないからさ〜」
「じゃあ須藤さん、ちゃっちゃっと戸締まり済ませますか〜」
「おう、シャキシャキーンとやっちまおう。樋口は事務所の電源たのむなぁ着替えて来るから正門前で落ち合おう」
『はい、わかりました〜』 「ラジャーじゃ俺は成型部のとこと裏口やっときますね」
「ああ、頼んだぞ遠山、俺は溶接部と、組み立て部見てくるから。」
そう言って2人は現場に向かって走って行った。
パソコンの電源をチェックして、事務所の設計室と営業、業務の各部屋の明かりを見渡して、事務所の入り口の扉に鍵をかけた。
そっとズボンから携帯を取り出すとメールが入ってる。 受信時間19:13
宛先 莉菜
件名 おーい(^-^)/
添付 一件
8時半には仕事終わるから、ご飯食べに行かない? 仕事終わったら返事ちょうだい。 あんたの愛しの莉菜より
『………………』8時半? ヤバい、直巳と話に夢中になってて気が付かなかった。慌て返事を返した。
【ごめん。今終わったんだ、すぐにいくから40分位には着けると思う。ちょっと待ってて】
そう返して、莉菜がメールに着けた写メを見返した。莉菜の顔を撮った写メ。
仕事中の服を着た莉菜…
たった数行のメールの文字が、昨日の事が嘘じゃないって自信をくれる。
「おっこれ透の彼女?おっお〜〜〜すっげー可愛いじゃん。なんの奇跡が起きたんだ?」いつの間にか直巳が後ろに立って、不意に僕の携帯を奪うと莉菜の写メを見て大興奮してる。
『奇跡ってひどくね?』 今は何を言われても平気な気がした。 そして、(彼女)って言葉がなんだかくすぐったかった。
確かに、好きだからって感情抜きにして莉菜は綺麗だ、そう昔から… 思えば中学の時は告白の連続だった。
突然、直巳の携帯が静かな工場の中に響き渡たる。 「おい、なにしてんだ?けぇ〜るぞ〜」
「あっ須藤さん、わっかりました〜すぐ行きや〜す」 そうして、僕と直巳は正門へと歩き出した。
直巳に冷やかされながら。
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