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作品名:一滴の片思い 作者:くだりゅう

第13回   第12話
「こんにちは、ワタシ、黒猫のノワールです。じ・つ・は、パパと樋口さんが車で、恋の話をなさってる時から、ちょっと前に莉菜さんから聞いた話をちょっとだけお話しますわ。あっパパは須藤と申しますの。ではバロンがいない間に、皆さんだけに少しだけ。そうあれはお昼に美容室チワワブースの前の公園で、わたくしが散歩をしていた時の事ですわ」

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まだ夏の日差しが残る、9月の昼間、美容室チワワブース前と藤川町の老舗和菓子店 蓮華堂 とお弁当のヒマワリ亭前との間に囲まれた小さな公園は、程よい日差しがあり、周囲の客商売の従業員の昼休みの休憩所になるとともに、周囲の猫達の立ち寄り所にもなっていた、もちろん我らが散歩好きなバロンもよくここで、仲のよいニャン友とじゃれあっているわけだが、本日ノワールがここを訪れたのは、たまにする気まぐれな散歩からである。
飼い主の須藤美保が通う、チワワブースの前でよく美保を待っていたのだけれど、ノワールはここの隅にある、花壇の側のベンチがお気に入りだった。

この日、須藤美保は近くの病院に通院中、気ままなバロンは一匹、先に出掛けてしまい、ノワールは退屈しのぎに、お気に入りの花壇前のベンチで一休みでもしようと、やって来たわけであった。

チワワブース側の入り口から、入って左に曲がり一直線に、ベンチに向かう。反対側には人間が二人、ベンチに座り何かしている、と前に見かけた事がある野良猫が三匹昼寝をしていた。

猫世界のご挨拶はあれども知らない猫に自分から行くほど、ノワールは友好家ではないから、気付かれないなら早々と自分の目的に向かおうと四肢の歩を早めた。

微かな花の匂いが漂ってくる。ノワールは花の微かな匂いが好きだったから、気分は嬉しくなり尻尾は自然と縦に伸び始める。
しかし近くに行くと、花の匂いと共に人間のつける香水の匂いが鼻をかすめた、ベンチに目を向けると女性であろう背中が、目に入ってきた。
微かに見覚えのある後ろ姿である。

多分それはさっき通りすぎた、ママの毛を整えてくれる所でたまに頭を撫でてくれる女性だろう。

知り合いに 会えた喜びからか思わず声が出てしまった (ナァ〜〜ン)

「え?」女性が振り向くとやはり例の彼女だった。

ノワールは彼女の撫で方が少し気に入っていた。

人見知りの激しい彼女には珍しく今日は積極的に女性の足に頭を擦り付けて甘えていった。

「わっどうしたの猫ちゃん、お腹空いたの?ごめんねご飯はもう終わっちゃったのよ。」 そう言うと女性はノワールを抱き上げ、自分の顔の前まで持ってきた。
「あら、あなたノワールちゃんじゃない?須藤さんのとこの、どうしたの?今日は須藤さんは?んー今日は一人でお散歩か〜いつもの白猫ちゃんもいないんだね?ねえ、少しだけ撫でてもいい?」そう言われて、ノワールはここ一番の可愛い声でニャァ〜〜ン。と一声返事をした。

「そっか、ありがと。ね、私の膝の上においで」

そう言うと女性はノワールを膝の上に載せて、ノワールの頭から背中をゆっくりと撫で始めた。
ウゥワァ〜ン。
ノワールは嬉しそうに鳴き声をあげる。

「あっ、ノワールちゃん喜んでくれてる?うちのポルタもこれ好きなんだよ〜それとワタシ、香山莉菜。覚えてるかな?あそこの美容室のスタッフなの。須藤さんがいらっしゃった時に何度か合ったわよね?やっぱり覚えてないかな、」

(覚えてるわよ、莉菜さん。わたくし貴女の撫で方好きですもの)

ノワールは莉菜の顔を見上げると微笑みながらニャウニャ〜ン と答えた。

「あっ覚えててくれたの?嬉しい〜ノワールちゃん綺麗な毛並みね〜よほど須藤さんに愛されてるのね。」
「あっそうだ、ノワールちゃん。お互い女同士だし、少しだけお話し聞いてくれない?」

「………あーー私何言ってんだろ、猫に言葉が解るわけないのに…」

そう言われて、ノワールは少し体勢を変え、右前足で莉菜の手をそっと叩いた。勿論爪は出さずに。

そして少しだけ大きな声で莉菜を見つめながらニャ〜〜ンと鳴いた。

(猫に言葉が通じないなんて失礼ですわよ)

そうまるで言うように。

「え?わかるの?………そっか〜じゃあ、少しだけノワールちゃんに、愚痴を聞いて貰おうかなぁ〜」

そう言ってノワールを膝に載せて香山莉菜は静かに語り出した


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