掃除の行き届いていない暗い部屋で、今日も謙二はただ時間が過ぎるのを待っていた。
4年半前に、幼なじみの菅井亜樹奈が不倫相手と思われる男に殺害されてから、謙二はただただ哀しみの暗闇から立ち直れなかったからだ。 謙二は秘かに亜樹奈の事を想っていた。 時として二人はそうなろうとした時があったが、結局は意地の張り合いに転じて、別々の道を歩いた。 亜樹奈から不倫相手の相談をされた時には亜樹奈の余りにも真面目な表情に、今度こそ亜樹奈への想いを裁ち切ろうと決心したのだった。
『頑張れよ』
それが謙二が亜樹奈に掛けた最後の言葉だった。
それから10分も経たない内に亜樹奈は命を断たれた。
それから、結局は直接として謙二は関係ないのだが、救えなかったという罪悪感に苛まれて、しかる内にその3ヶ月後に謙二は両親は事故で失う。
一連の出来事から謙二は虚無感から仕事を辞め部屋に籠るようになった。
僅かに残る活力からか、謙二はInternetでホームページを立ち上げ、少しずつ少しずつ更新する日々が続いていた。
そんな日々が四年が程過ぎた時、謙二のホウムページのBBSにポツリポツリと“ルカ”と名乗る人物からコメントがつくようになる。
最初は一週間に一度だったり、続けて2日だったり。 その内“ルカ”はほぼ毎日の様にコメントを残す様になった。
いつの間にか、謙二の心の内に“ルカ”からのコメントを待ち望む気持ちがくすぶり始めていた。
そしてそれが、謙二が明日を迎える糧になっていった
[会ってみたい…] いつしか謙二はそう思い始めていた。
思いの外、それは簡単にやって来た。
まず謙二は“ルカ”がコメントをした時に意を決してBBSに捨てアドを載せてみた。
それから二時間、謙二は何度も何度も後悔しながら“ルカ”からのMailを待った。 なんならいっそホームページを閉じようかさえ思っていた。
“ルカ”から返事のMailが届いてから謙二はこの四年間で初めてまともに笑顔を見せた。 と言っても部屋には謙二しか居ないのだから気付いた者はいなかった訳だが。
他愛のない話。
まるで意味のない話。
たがそれは、今の謙二には大切な意味を持っていた。
知らず知らずに、謙二は明日を夢見るようになっていたのだから、例えそれに本人が気付いていなかったとしても…… 。
ただ…謙二が気付いたのは自分は“ルカ”に惹かれているかも知れないという事だった。
三週間のMailのやり取りの後、 謙二はいつか“ルカ”の声が聴いてみたい、その手に触れてみたいと思い始めていた。
その頃にはやっと自分が“ルカ”を好きになり始めている気付いた。
そうなると、〔会いたい〕という言葉が“ルカ”に伝えれなかった。
今の関係を壊すかも知れない事は、謙二には例えようない恐怖だった…。
そんな謙二の葛藤の中で “ルカ”から[いつか会いたいね]とのメッセージが届いた。
謙二の胸の躍動はまるで幼少時の初恋の時のようだった。 まるで、自分にも聴こえてくるぐらい。 その日、謙二はなかなか眠りに堕ちる事が出来ずにいた。
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