2010年9月18日。
謙二は、兼ねてから瑠佳の担当医と看護師の責任者にその日だけ、病室で宿泊出来るように懇願していた。
瑠佳と謙二の関係をしる病院関係者の後押しもあり、どうにか謙二の要求が通った形となった。
その日は昼から瑠佳の病室へと足を運び、瑠佳の指輪、謙二のペンダントの契約のアイテムを瑠佳の側におき、時折手を握り、時折話し掛けながら1日を過ごした。 夕方、売店で買ったサンドイッチとコーヒー牛乳を流し込み、ただ時間が経つのを、待っていた。 ただ今週はバタバタと何かしら忙しく、午後11時を回った辺りで謙二はウトウトしはじめ、時計が午前零時を回る頃には、静かに寝息を立てながら、瑠佳のベッドに頭を落とす形で眠ってしまった。
微かな意識の中で、小さな声で名前を呼ばれている気がした。
頭をゆっくりと撫でられている気がした。
病室の外では、見回りの看護師の足音が聴こえてする。
すぅーと扉を開ける音。 看護師の田中菜緒子は、何時もと違う病室の景色に、つい大声を上げそうになった。
しかし、在籍者のジェスチャーに気づき、口に手を当て静かにその場を立ち去った。
小一時間して、今度は別の人物が扉を開いた。
その人物は中の様子をじっくりと見渡し、ポケットからメモ帳を取り出すと「朝、また診察に来ます。今夜は二人でゆっくりと」と書き、ベッドにそれを置いた。
先ほどジェスチャーをした人物は、にっこりと不器用に微笑むと、指先で手を振った。
医師はその人物の上半身をゆっくり起こし、背中に枕を挟んでくれた。
瑠佳は、医師に小さく首だけのおじきをして別れた。
そして自分の懐に眠っている、謙二の後ろ姿をいとおしく眺めていた。
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