「こんにちは、松村さん」
『あっ、こんにちは』
「謙二君、今日も頑張ってねぇ」
『こんにちは、藤村さん、体調はどうですか?』
「こんにちは、松村さん毎日お疲れさまですね〜」
『あっ、重松先生、ありがとうございます』
すれ違い様の挨拶を軽やかに交わしながら、謙二は瑠佳の病室へと向かう。
ナースステーションでは、妊婦と看護師の女性が親しげに話している。
「ねぇねぇ、菜緒子、あの人有名人なの?みんな挨拶してるけど」
「あぁ、松村さんねぇ、入院してる人や病院関係だと、有名かなぁ」
「何?何?なんかあるの?」
「恋人のお見舞いに、この10年一日も休まずに通ってるのよ」
「え?休まずにって1日も?」
「そうそう、この前なんか、事故にあったその日に、片足引き摺って駆け付けたのよ。」
「うそ〜」
「ホントだって。あれ以来、病院内で噂が広まってさ〜」
「田中さん!!」
「あっヤバッ、奈津美、そろそろ戻らなきゃ、それじゃあね〜」
「あぁ、うん。また連絡するよ。仕事頑張ってね〜……ふ〜ん、10年か〜いいなぁ〜それだけ愛されるなんて、きっといい子なんだろうな〜」
いつもの見慣れた、病室で瑠佳は今日も静かに、まるで今にも起きて欠伸でもしそうに眠っている。
窓から見える外の景色は春を迎え、芽吹きの季節を迎えている。
謙二はいつもの様に、瑠佳の手を握りしめ、返事をするはずのない瑠佳にゆっくりと語りかけている。
瑠佳が眠り始めて、10年目の日にちに、残り半年を切っていた
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