9年目……謙二と瑠佳の間に目に見える変化は起きていなかった。
瑠佳は少しづつだが、成長を続け、見た目も謙二と出会った“刻”と同じ様になっていた。
この年、初めて謙二はこの9年の事を愚痴った。相手は井上だった。
何度もくじけそうになった事。
最初は女子高生と恋仲であるという謙二を好奇の目で見ていた他人の目が辛かった事。
両親が死んだ時、そんな時も瑠佳の所に駆けつける自分に罪悪感を抱いていた事。
瑠佳の父親に家族だと言われ、本当に嬉しかった事。
そして井上という親友の助けが本当に謙二の救いになった事。
自分がどんどんと歳をとり、変わっていく容姿に、瑠佳が目が覚めたら拒否するのではないかと恐怖に怯えた事。
なにより目を覚ました瑠佳が、自分を覚えてるのかという最大の恐れ。
その度に、家に帰り独り泪を流した事。
井上は謙二の愚痴を静かに聞いていた。
そして、今の謙二の行動はお前にしか出来ないんだから、自信を持てと何度も優しく謙二の肩を叩いた。
その年の暮れ、初めて謙二は酒井一家と井上夫婦と年越しを過ごした。
呪縛の期限まで一年をきり、謙二は油断していた。
冬のある日、謙二は事故にあった。
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