其処は人知れず路地裏に控え、大きな木製の扉がそびえ建ち古ぼけた佇まいの店だった。
中は西洋風の家具が溢れ、怪しげな小物が多数置かれていたが綺麗に整理されていた。
コートの女性は店に着くと奥の部屋に消えて行った。
ソファで待たされていた謙二に、背の高いスマートな青年が、お茶を運んできた。 部屋の隅には灰色の猫が眠りこけている。
青年は自分を立石光太郎と名乗り、とりとめのない話を謙二にしてきた。屈託なく話す光太郎に何時しか謙二の緊張も和らいでいた。
バタンと奥の部屋の扉が開きコートの女性が足早に飛び出してきた。
「さ〜て、本題だよ坊や。とりあえず名前を名乗りな。」
『えっ?名前?はい。松村謙二です。』 「そうかい、私はドゥルーシラ、ドゥルーシラ・アグトリッヒだよ。きちんと覚えておきな。」
『ええ、ドゥルーシラさん。』
ドゥルーシラの横で光太郎は少年の様にニコニコと笑っている。
「先ずは、あの子の契約について話すよ、ただし他人の契約を話すのは例外中の例外だからねぇ、」
『はぁ』
「まったく覇気のない男だねぇ、とりあえずだ。あの子は10年の“刻”をアタシに渡す事でアンタとあの子自信をこの時間に飛ばした。ここまではいいかい?」
『それは何となくわかるんですけど、10年の“刻”を渡すってのはいったい』
「何事も慌てるもんじゃないよ、ちゃんとそれは説明してあげるからね。」
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