謙二は多分人生で一番な程に途方に暮れていた。
刑事の事情聴取から解放されて病院に戻ったがやはりこの“刻”の中では接点のないはずの謙二には、瑠佳への面会ははばかられた。
親切な看護師の人の話によると未だ意識は回復せず、緊張状態が続いているらしい。
病院の近くの小さな公園でタバコをふかし、缶ビールを口に含んだ。
カラカラだった喉に潤いが染み渡る。
ただ味は感じなかった。
この“刻”に来る前の“刻”で二人は愛し合い、強く結ばれた。その思い出がまるでエンドレスに続く映画の様に駆け巡った。
泪は後から後から流れてくる。
ルカ…俺は君に何をしてあげたらいい…
「ちょっと、泣いてばかりいんじゃないよ。」
謙二が顔を上げると、あの時の艶やかな髪を下げたフード付きの女性がいる。
「ほらっ早く立ちな。まったくかなり計算違いだよ。」
『何なんだよ。あんたには瑠佳が救えるのか?それならどうすればいい?必要なら俺の命だって…』
「バカ言うんじゃないよ、いいかい良くお聴き。あの子を助けて上がる、その代わり」
『その代わり?』
「私と契約するんだ、対価はしっかりと頂くよ。」
『契約?どうすればいい?瑠佳の為なら何だってする』
「そうかい。嘘じゃないね、今から私の店についておいで。改めて説明するからね」
そう言われて、コートの女と謙二は公園を後にした。
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