病院のERの手術室の前で、謙二は自失呆然になって椅子に座っていた。
何分が過ぎたのか、慌てた表情で堅そうにスーツを着こなした男性と、嫌らしくない上品な雰囲気の女性の夫婦らしい二人組が謙二の前に駆け寄った。
少し遅れて瑠佳に良く似たお洒落な二十代前半の女性が現れた。
おそらくは瑠佳の家族だろう。
三人は怪訝にそうに、謙二を見ながら男性が軽く会釈をした。
謙二も反射的に会釈を返す。
手術中のランプが消えて、担当医が現れた。 三人は医師に駆け寄り瑠佳の容態を母親らしい女性が訪ねている。
謙二はその状況の感じ方にまるで映画を観るような感覚に囚われていた。
医師は出血が酷く、今夜が山だと夫人に告げている。
途端に夫人と姉の二人が泣き崩れ、父親にしがみついた。
気が付くと謙二の前にくたびれたスーツに短髪の男性と黒のスーツに髭を生やした若い男性の二人組が立っている。
短髪の男性が身分証を出し謙二を外へと促した。
振り返ろうとして、謙二は瑠佳の父親と目が合った、そしてまた会釈した。
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