「ルカー、ルカー。」涙声のまま謙二は、瑠佳に必死に呼びかけている。
横では亜樹奈が座り込み、謎の男性は稲守を未だ押さえ込んだままだ。
謙二は声の限りに瑠佳に呼び掛けた。
『瑠佳、ルカ…るか、死ぬな。死なないでくれ。お願いだから…俺を一人にしないでくれ。ルカ…ううっ……』
不意に瑠佳が眼を開け謙二の方を向いた。
「け…ん…じ……」 『ルカ…瑠佳ー』
「愛してるわ、謙二くん……わた……し、忘れないで……きっと…わた……しの…事……」
『何言ってるんだ、忘れたりしないから、絶対に…うっ…うっ、瑠佳、愛してる。』
「ん…よかった……うれしいよ…けんじ……その刻を待っていて……」
瑠佳はうっすらと微笑むと、バタッと意識を失った。
バタバタと数人の足音が聴こえて、辺りが騒がしくなる。
「いたぞー負傷者二名ー」
制服姿の警官が長髪の男にかわり稲守を押さえ、その後ろから救急隊員が亜樹奈と瑠佳に駆け寄る。
けたたましいサイレンの音が辺りに響き、騒然とするなか謙二は瑠佳を載せたストレッチャーの後を追い掛けて、救急車に乗り込んだ。
遠目に、亜樹奈に駆け寄る中年男性が見えた。
稲守を押さえていた、長髪の背の高い男性の姿は見失った。
謙二はただただ祈る想いで、瑠佳の手を握りしめていた。
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