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作品名:刻(とき)の代償 作者:くだりゅう

第23回   seen23〜煌く時の中で〜
「けんじ……」
うっすらと眼に涙を浮かべ亜樹奈は声のする方に眼を走らせた。

男はそれを察して目線に覆い被さるように亜樹奈の前には立ち塞がる。

「もうやめて、稲守さん……」

「言っただろ?亜樹奈、君にはお仕置きが必要なんだ」

稲森の目は血走り常軌を逸している。

亜樹奈は表情をますます強張らせる。


「けんじーーー」

ありったけの声で亜樹奈は助けを呼んだ。

その刹那……

焦った稲森の凶刃が亜樹奈に向かい走り出した。


切っ先は亜樹奈の左腕をさらい、鮮血が亜樹奈の腕を伝う。

稲森の顔はもはや狂ったようにネジ曲がり再び亜樹奈へと凶刃を振りかざした。



外灯に当てられた刃先が妖しげな光を放った瞬間、二つの影が稲守と亜樹奈へと駆け出していた。

確かに謙二は亜樹奈の叫び声を聞いた……

焦りと走り続けた疲れから謙二の心臓は今にも飛び出しそうに速い鼓動を鳴らしている。


(亜樹奈、まさかもう……)

イヤなイメージを払拭するように、不恰好ながらも懸命に謙二は声のする方へと駆け出す。


さっきまでの苦しみは消えてしまったように。


植木の囲いを過ぎ、息を切らしながら少しの開けた場所につくと、外灯に照らされて女性が立っていた。


地面には大柄の男性に取り押さえられ、男が何やら喚いている。


そして、もう一人……
組み合った男性二人の横に誰かが倒れている。

汗に眩む眼を擦りながら謙二はもう一度状況を確かめようとした。


身体は小さいながら見覚えのある後ろ姿が倒れ込み、その横にはナイフが落ちている。


謙二はそれが誰だか薄々と気付きながらも必死に脳内で否定しようとした。


「げん、ぢ〜」涙声で亜樹奈は此方を向き名前を呼んでいる。

ゆっくりと倒れている人物に近付きながら脳内に響くその名前を否定する。


心臓は先ほどとは比べ物にならない位の大きな慟哭を刻みながら謙二の体内に高圧の血液を流し込む。


抱き抱えた人物の顔を見て、謙二は哀しみに顔を歪ませた。


『ルカ…』

遠くでサイレンの音が聴こえる。


謙二はその女性を強く抱き上げた。


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