実際に、なんの根拠もなく「貴女はこれから殺される」と伝えた処で、信じて貰えないか、頭がおかしくなったと思われるだけだ。 よくて最低のジョークをかましたイヤな奴なだけだ。
その話に持ち込むなら、何かしらの状況を作らねば、信じてくれないだろう。
稲守が亜樹奈にストーカー行為をしていたのが真実なら其処から注意を呼びかけてみたほうが良いかも知れない。
後はどうやってそこに話を誘導するか… 時刻は午後5時に差し掛かろうとしている クダクダとそんな事を考えていると、携帯のバイブレーションが震えた。
ズボンのポケットから携帯を取り出すと、亜樹奈からの着信である。
そう言えば、この日の2日前程に話があると呼び出したのは自分であることを謙二は忘れていた。
もちろん本当なら、何時に会うか連絡したのは謙二だったから、この時間に戻って謙二はその連絡をしていない。
たぶんそれについての内容だろう。
「ちょっとー、早く出なさいよねぇ。人を呼び出しておいて連絡もしないし」
電話の向こうの亜樹奈はやや怒りぎみでまくし立てた。
『ごめん、ごめん。今日はバタついちゃって。仕事終わった?』
「もうすぐよ、謙二との後の約束があるのよ、時間がないなら別の日でもいいでしょ?」
意外な言葉に謙二は固まってしまった。 『い…や、今日がいいんだよ…Hビルの近くの公園の傍にある、カフェ・ド、えーと、カフェ・ド・ビューって分かる?』
「あぁ、そこなら分かるけど、時間無いわよ。」
『あぁ、いいよ、15分位でいいから。お願い。』
謙二はかなり必死に頼み込んだ。
「しょうがないわねー。ちょっと待ってて。」
少しの沈黙の後の亜樹奈の返事に安堵して謙二は胸を撫で下ろした。
とりあえず、第一関門は突破出来た訳である。
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