「じゃあ何時でもおいで。」
そう言ってドゥルーシラは優しく瑠佳を見送ってくれた。
ドアを開けようとするとちょうど長髪の男性が店に入ろうとしていて瑠佳とすれ違う。
「あれ?ちょっと待って、ん〜君は…」 「光太郎!!」
「あっごめんね、何でもないよ。」
瑠佳は男性の言葉が気になりながら店を後にした。
「ドゥルーシラ、いいのか、あの子依代(よりしろ)になる子じゃないのか?だったら騙してでも……」 「お止め!!、……アンタが光太郎ならそんな事言わないよ!」
「でも……ごめんなさい。だってさ、そうしたらドゥルーシラは、“刻”の呪縛から…」
「ふっ…いいんだよ。あの子は闇に呑み込まれたりはしない。あの日の私の様にはね…」
「いいのかい?ドゥルーシラ。」
「ああ、その時が来たら…私は非情にならなきゃならないからね…」
「ドゥルーシラ。」
ドゥルーシラの店を出るときは辺りは薄暗くなっていた。
瑠佳はドゥルーシラの言ったことを何度も考えていた。
私はどうしたいのだろう。
悩んでいると家に帰る気にならず、公園のベンチに腰掛けた。
辺りは更に暗くなり、公園の外灯はチラチラし始めている。
妙に人影が無くなっているのに瑠佳は気付かなかった。
そこに、其処を通りすぎようとする人影と立ち塞がろうとする人影がある。
瑠佳はそれにすら気付かずに外灯の光の影のベンチで想いにふけていた
男の手にはキラリッと光る何かが握られている。
瑠佳は恐怖にかられ物陰に隠れた。
一分足らずの押し問答の後で、女性の断末魔の声が聴こえた… 「いや、ヤメテ、退いてよ!!」
静寂を切り裂くような女性の声で瑠佳は顔を上げた。
顔は見えなかったが、男女が言い争っている。
瑠佳は耳を塞ぎ必死に声を圧し殺した。 眼から泪は止まらない。止め方が瞬間的に判らない。
恐怖に狩られ身動きの出来ない瑠佳が都合よく気配を消していた。
崩れ去る女性を他所に凶行を犯した男性は、振り返り逃げようとした、
その刹那、振り返った男性の前には別の背の高い男性が立っている。
背の高い男性がゆっくりと狂者に近づくと頭に手を翳す(かざす)。
何が起こったか解らないが狂者は、ガクッと膝を落として動かなくなった。
背の高い高い男性は、ゆっくりとあるき瑠佳の前を通りすぎる。
……!!……
「見逃してあげるから、今のは忘れるんだ。」
そう呟いて男性は去って言った。
瑠佳は恐怖に身を縮め、声を殺している。
暫くして辺りは、ざわつき始めている。
たった一つの影を残して騒ぎが鎮まると、瑠佳はやっと顔を上げた。
其処には何時からいたのか男性が泣きグズレ、膝をついている。
瑠佳はその風景に、目を奪われていた。
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