「まったく、世話やかせじゃないよ、此方もいろいろと忙しいんだ。いいかい、ちゃんと顔を上げて話をお聴き。」
いきなりまくし立てる女性に謙二は呆気に取られていた、見ず知らずの自分に急に怒鳴り散らして、この女性の精神は大丈夫かな?とさえ思っていた。
ただ、瑠佳と暮らしていた時代からこの過去の世界らしき世界に戻った事に、彼女は何かしら事情を知っているのかもしれない。
謙二ははやる気持ちを落ち着かせ彼女の方を見直した。
「そうそう、やれば出来るじゃないか。時間が無いからね、短く、一度しか言わないからよくお聴き。」
「酒井瑠佳って子は知ってるね?」
謙二は声に出さずに首を縦にふる。
「私はその子から依頼を受けたもんだ。それ相当の対価と引き換えにあの子は、アンタと自分を過去に飛ばす事を選んだ」
『じゃあ、瑠佳もここに?』
「そうさね、只ねアンタにはやらなきゃならない事がある。」
『俺に?やらなきゃイケない事?』
「そうだよ、あと五時間位かね、アンタの心残りをやり直す機会がやって来るよ」
それを聴いて、謙二は亜樹奈の事だとピーンときた。
『じゃあまさか、瑠佳はその為に、あんたに代価を払ったのか?』
「ああ。」
『そんなこと……今すぐ止めてくれ、お金なら俺が何とかする。瑠佳に会わせてくれよ』
「言っておくがね、代価じゃないよ、対価だ。こんな事はいくら金を積まれても割には合わないからね。」
『じゃあ、どうすれば……』
「お黙り!!契約の解約は認めないよ。言っておくがね、悪魔と取引したと思いな。それとアンタが心残りを解決しようがしようとすまいが、契約は遂行されるよ。あの子の気持ちを察しておやり。」
「いいね。ワタシもいろいろやらなきゃならない事があるんだ。いいかい。此れからどうするかちゃんと考えな。」
そう言うと女性は、嵐の様に去ってしまった。
まるでつむじ風の様に。
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