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作品名:刻(とき)の代償 作者:くだりゅう

第1回   seen1〜プロローグ〜
酒井瑠佳のいつもと変わらない寝顔は、松村謙二に対価の終了では無いことを知らせている。


謙二が本当の世界で、いや多分違う“刻”の流れの世界で瑠佳と出逢った日付は五年も前に過ぎていた。


もし瑠佳が眼を覚まし、謙二の事など覚えていなかったらと言う不安は毎日の様に謙二を苛まさせた。
【その刻を待っていて……】と最後に瑠佳が告げた言葉だけを信じて、やがて来るのであろう瑠佳の目覚めの刻を謙二は必死に待ち続けた。

謙二はいつの間にか三十路を過ぎ35の誕生日を3ヶ月前に迎えた。気がつけば頭にはチラホラ白髪が見え隠れしている。


こうして瑠佳が眼を閉じたまま眠りに堕ちてあと数日で10年になる。

謙二はあの時瑠佳が支払った“刻”の代償に胸が締め付けられそうになるのを堪えた。

淡く生きている色みの残る唇へ謙二はそっと口付けをした。

壁に掛けられたカレンダーは9月を示し、あの事件からあと12日で10年になるのかと、謙二は想いふけった。

当事高校生だった瑠佳はもう25になっている。

大切な青春期の大半を瑠佳はベッドの上で通りすぎてしまった。


そうこうしている内に謙二は瑠佳が眠るベッドの横で眠りに堕ちてしまっていた。


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