「ゆりか!」 ゆりかのママは叫んで、布団からはね起きると、枕もとの置き時計を見つめ直した。 そこは箱根の保養所の一室で、ママは誰かの悲鳴を聞いて、目を覚ましたところだった。 急いで夜着をはおり、隣のゆりかの部屋を、電気をつけてのぞいたが、中は空っぽだった。 ママは、激しい胸さわぎに襲われた。 その時、廊下からあわただしい物音がして、ゆりかが帰って来た。 「はあーい。ただいま、ママ! 元気だった?」 「まあ! 何を寝ぼけているのよ。ママはいつでも元気ですよ。それより、どうしたの? まだ夜中の三時よ。少し眠りなさいよ」 「うん、そうするわ!」 ゆりかは快活に答えた。 ママが部屋に戻ると、じきにママの立てる寝息の音が、ゆりかに聞こえてきた。ゆりかはつま先立ちで廊下に出ると、暗い片隅で、みどり色の光の輪が、じょじょにすぼまっていくところを、静かにながめた。 「さようなら、パピリカさん! どうもありがとう! ロデリア姫やみなさんに、よろしく伝えてね!」 「心得ましたわ! ゆりかさんもお元気で!」 パピリカが光の輪の端っこで、まばたきをした。 さっきまで偽物のゆりかだった、サボテンみたいな怪物の姿が、小さくなって震えているのが、輪の中に見えていた。 「そっちのあたしにも、親切にしてあげてね! 悪気はなかったんだと思うのよ!」 「わかっておりますわ! おやすみなさい、ゆりかさん! エル・パパス・ルタ、ユリカ・テンドゥスカ! 神聖孔雀のアルゴスのつばさにかけて、どうか末長く、お幸せに! ごきげんよう!」 「うん、パピリカさん! さようなら! さようならね!」 みどり色の光は小さくなって、やがて見えなくなった。
(みどりの孔雀・完)
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