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作品名:みどりの孔雀 作者:zamazama

第45回   みどりの孔雀・完


「ゆりか!」
 ゆりかのママは叫んで、布団からはね起きると、枕もとの置き時計を見つめ直した。
 そこは箱根の保養所の一室で、ママは誰かの悲鳴を聞いて、目を覚ましたところだった。
 急いで夜着をはおり、隣のゆりかの部屋を、電気をつけてのぞいたが、中は空っぽだった。
 ママは、激しい胸さわぎに襲われた。
 その時、廊下からあわただしい物音がして、ゆりかが帰って来た。
「はあーい。ただいま、ママ! 元気だった?」
「まあ! 何を寝ぼけているのよ。ママはいつでも元気ですよ。それより、どうしたの? まだ夜中の三時よ。少し眠りなさいよ」
「うん、そうするわ!」
 ゆりかは快活に答えた。
 ママが部屋に戻ると、じきにママの立てる寝息の音が、ゆりかに聞こえてきた。ゆりかはつま先立ちで廊下に出ると、暗い片隅で、みどり色の光の輪が、じょじょにすぼまっていくところを、静かにながめた。
「さようなら、パピリカさん! どうもありがとう! ロデリア姫やみなさんに、よろしく伝えてね!」
「心得ましたわ! ゆりかさんもお元気で!」
 パピリカが光の輪の端っこで、まばたきをした。
 さっきまで偽物のゆりかだった、サボテンみたいな怪物の姿が、小さくなって震えているのが、輪の中に見えていた。
「そっちのあたしにも、親切にしてあげてね! 悪気はなかったんだと思うのよ!」
「わかっておりますわ! おやすみなさい、ゆりかさん! エル・パパス・ルタ、ユリカ・テンドゥスカ! 神聖孔雀のアルゴスのつばさにかけて、どうか末長く、お幸せに! ごきげんよう!」
「うん、パピリカさん! さようなら! さようならね!」
 みどり色の光は小さくなって、やがて見えなくなった。



                               (みどりの孔雀・完)








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