アヨング・オキ
ゆりかは青くなって、立ち上がった。 「ゆりかさん、危ないですわ! 座っていてください! ゆりかさん! ゆりかさん!」 ペン子がゆりかを植え込みに引き戻そうと、そでを強く引っぱった。 「待たれよ! 待たれよ! そちたちは、どこにおるのだ? 一体、何者なのだ?」 ややあって、ゆりかが声をかけた。 「あのう・・・あなたの・・・真後ろですよ・・・」 若者は、ゆっくりとふり返った。 青龍刀をふりかぶったままの、若者の黒い目は、瞳には自分の心以外の、何物も映ってはいないように、虚ろに見開かれていた。 「くせものめ! さあ、かかって来い! かかって来い! 今すぐに相手になるぞ!」 その若者は、見たところ十五、六歳くらいの、とてもハンサムな、色黒の青年だった。黒髪に、青黒いやつれた頬をして、黒の胴着と黒のタイツを身につけ、引き締まったその細身の体を、黒いケープで覆い隠している。足にはつま先のそり返った、黒い短靴をはき、神話に出てくる邪悪な蛇のような、幾重にもよじれた金色のベルトを腰に巻いて、茶と紺でまだら模様に染め上げた、漆黒の刀の大さやを、手にぶら下げていた。 「ゆりかさん、危ないですわ! お逃げになってくださいな!」 叫びながら、ペン子がゆりかにしがみついてきた。 「あ・・・あなたは・・・目が・・・お悪いんですか?」 「な―― 何だと!?」 そのとたん、足もとをもつれさせて、若者はどっとはでに転んだ。 「あっ! ああっ!―― だ、大丈夫ですか?」 「す・・・すま・・・ぬ・・・だ・・・大丈夫・・・だ・・・どうも・・・ありが・・・とう・・・」 若者は服についた汚れを手見当ではらうと、落とした刀を拾うため、地面を不器用に手探りした。ゆりかはそり返った重い刀を拾うと、若者の手になんとか押しつけた。 「・・・す・・・すまぬ・・・お・・・お見苦しいところを・・・お目に・・・かけて・・・ところで・・・き・・・きみたちは・・・だ・・・誰なの?・・・聞きなれない・・・声だけど・・・」 「あ―― あの―― わたしは―― 天堂―― ゆりかです・・・こっちは―― ペ―― ペン子ちゃん」 「ゆりかに、ペン子ちゃんか。聞きなれない呼び名だが、異国のお方かな。よくぞ、わが宮殿へまいられた」 「あの、わたしたち、カンバーランドから来ました」 「何だと!?」 ゆりかの一言に、若者は顔色を変えると、 「すると、そなたたちは、カンバーランドの刺客かね?」 「い、いいえ、ち、違います! わたしたち、怪しい者じゃありません!」 「その言葉に、嘘いつわりはないであろうな?」 「あ、ありません!」 「ありませんですわ!」 ゆりかとペン子は、口々に叫んだ。 「よろしい、そなたたちを信じるとしよう。私はこの国の政治をあずかる、ラフレシア大公の息子で、人呼んで“目明きのアヨング”こと、アヨング・オキ殿下だよ―― いかん、誰か来る! そなたたち、身は軽いですか?」 「はい。わたしは、人並みくらいには」 ペン子がぬけぬけと言い放ったが、ばたばたという足音が、回廊のそちこちから聞こえてくると、 「それ、来たぞ! そなたたち、柱伝いに隠れながら、ついてまいられよ」 「姿を消すくらいならできますわ。あら、ゆりかさん? なんだって、わたしの顔を見ているんですか?」 「姿を消せるんなら、早く言ってよ、ペン子ちゃん!」 「さあ、急いで! 急いで! 大勢こっちへ来るみたいだぞ!」 「ペン子、承知いたしました! それ!」 「あれれ? もういいの? ちっとも“消えた”感じがしないけど―― あら、いやだ! 見つかっちゃったわ!」 その時、回廊の向こう端から、手に手に武器を持った、ターバン姿の兵隊の群れが現われて、まっしぐらに、ゆりかたち目がけて走って来た。 「なんだ、なんだ、大勢で? やかましいぞ」 アヨング・オキは、落ち着いた大声で叫んだ。 でん 「殿―― いいえ、わかぎみさま。まことにおそれいりまするが、ただ今、宮殿に侵入した賊を、手わけして探しているところにございます」 「何、賊? 言え、どんな奴らか?」 「ははっ。おそれながら、わかりかねまする。されど、こうして手の者を、二十人ばかりも引き連れまして、あちこち、手わけして探させておりますれば、発見は時間の問題かと」 「宮廷魔法使いはどうしたのだ? そやつらはまさか、表の門から入って来たわけではあるまいに」 「ははっ。さようであるならば、くだんの門番は、即刻、打ち首にいたさねばなりますまいな」 「よせ、よせ。訊いてみたまでのことだ。さてはペヨルカめ、眠っておったのかな。ダイババよ、あいわかった。とっとと行くがよいぞ。その方が手にした大刀の一振りで、あわれなるその賊の首を、みんごと叩き落とすのだぞ」 「おおせ、かしこまりました、殿(でん)―― あ、いいえ、わかぎみさま」 兵士隊長ダイババは、腰帯にさした刀のこいくちを、バチンと打ち鳴らした。 兵隊たちが引き上げて行くと、 「お客人たち―― まだおられますか?」 「はい、ここにおります。ペン子ちゃんもいっしょです」 「よし、ではついてまいられよ。案内いたす」 黒衣の若者は歩き出し、透明になった二人の少女が、あとからトコトコとついて行く。 三人は―― といっても、見た目にはたった一人だったが―― 長い長い回廊を、兵隊たちが去ったのとは反対の方角に、急ぎ足に歩いて行った。 アヨングはいささかも迷うことなく、二人の先に立って歩いて行った。その様子からは、アヨングが盲目であるなど、とても信じられない。 ゆりかとペン子は、宮殿の一隅の、とてもぜいたくな区画に通された。 そこはアヨングが個人的に使っている、広い広い続き部屋で、凝ったデザインの壷や屏風や衝立がそちこちに置かれ、不思議な飾り模様に似た線文字の記された巻物が、いたるところ広げられていた。壁は、木の枝や異国風の珍しい花々や植物の蔓や、葉っぱをあしらった青いモザイク模様のタイルが覆い、目も覚めるような唐草模様のじゅうたんが、すき間なく敷きつめられていた。 ふかふかした寝椅子と、金糸の縫いとりや刺繍のほどこされたクッションや座布団が、四角い掘り炬燵のまわりを、ぐるりと取り囲んでいた。四隅に置かれた陶製の美しい香炉からは、いい匂いのする七色の煙が流れ、部屋を満たしている。 アヨングは二人の女の子を連れて来ると、慣れた仕草で座布団をすすめ、自分も向かいあわせの一つに、ゆったりと腰をかけた。ゆりかとペン子もおっかなびっくり座り、部屋の中を見回した。若者は、水差しに入った飲み物を二人にすすめたが、二人はそれを断わった。ゆりかは飲み食いする気にはなれなかったし、ペン子はペンダントだったから、飲んだり食べたりはできないので。 「あらためて名乗るが、私の名はアヨング・オキです。この国を治める、ラフレシア大公の息子で、その世継ぎの者ですよ」 若者はためらい、 「一応はね」 と、つけくわえた。 「それで、そなたたちは、カンバーランド王国からまいられたそうですが、今も父ぎみのもとに、カンバーランドからのお使者がみえられています。お二人とも、そのご一行の方々なのですか?」 ゆりかとペン子は顔を見あわせて、ゆりかの方が首をふった。 「いいえ。そんな人たちが来ているなんて、わたし、初耳です。あの―― じ、実はわたしたち、あなたとロデリア姫との結婚のことで、あなたにお話をしたいことがあったんです」 「ああ、そのことですか。それで、どんなことなの?」 「お姫さまとの結婚式を、今すぐに、とりやめにしてもらいたいんです」 「何だって!」 「ロデリア姫は、あなたとの結婚は、全然望んでなんかいないんです! あなたのことも、全然好きなんかじゃないんです! 本当は結婚なんて、したくないんです! それで、なんとか院との約束で、仕方なくするんです! そう決めちゃったんです! あの―― 」 ゆりかは思いきって、口に出した。 「ロデリア姫は、一度お城を逃げ出したんです。どうしても、あなたとは結婚したくないからって」 「そんなことまで話してしまって、およろしいんですか? トップ・シークレットだと思いますけど」 「わからない。でも仕方がないわ、もう話してしまったもの、ペン子ちゃん」 ゆりかはロデリア姫が王宮から逃げた一部始終を、アヨング・オキに話して聞かせた。 「ふうん、なかなかの物語上手ですね、あなたは。それでロデリア姫は―― このことは知らないのですね、きみたちが私に会いに来たことは?」 「ぜんぜん―― 全然、知りません」 突然、若者が大声で笑い始めたので、ゆりかとペン子は、びっくりしてしまった。 部屋の外にいた警備の兵隊が、なにごとだろうと垂れ幕をいくつもかいくぐり、アヨング・オキのいる部屋にまですっ飛んできた。兵隊は、からっぽの座布団の前で、ただ一人、爆笑しているわかぎみを見て、てっきりアヨング・オキが正気を失ったものと、あわてて介抱しようと駆け寄って来た。 「いらぬ! よけいな世話を焼くな! あっちへ行け!」 わかぎみに怒鳴られて、兵隊はすごすごと引き上げて行った。 「あいすみませぬ。あまりに、おどろいたものですからね」 「あなたはおどろくと、あんな風にお笑いになるんですか?」 透明のペン子が、気分を害して尋ねた。 「いいや、そんなことではありませんよ。あのはねっ返りのじゃじゃ馬姫が、私とそっくり同じ気持ちだと聞いて、おどろいただけなのですからね」 「あなたと、ロデリア姫とが同じ気持ち?―― あのう―― それじゃあ―― あなたは―― あなたも―― ご結婚には―― 反対―― なんですか?」 急に現われた兵隊に、まだどきどきしながら、ゆりかが訊いた。 「反対も何も、私は賛成したおぼえは、まるでないのですがね」 「―― でも、どうしてですか?」 「『でも、どうしてですか』? その理由を私に言わせるのですか? 理由なら山ほどありますよ。だが、一番大きな理由は、私はロデリア姫にお会いしたことは、一度もないうえに―― おまけにロデリア姫は、幼い時から三国一の、わがまま王女という評判なのですよ」 「まあ! 何ですって! あなたはなんてことを!―― あの人は確かに―― 自分勝手なところも―― 少しは―― あると言えば―― あるけど―― でも―― 会えばきっと―― あの人を誰だって―― す、好きになるわ!―― それに―― 言っちゃあなんだけど―― あなたの方こそ―― とってもいやな奴だって―― ロデリア姫とパピリカが―― そう話していたわよ!」 「ふふうん! ご光栄のいたりですね。どうやら我々はおたがいに、好意を感じてはいないようだ。そのくせ、この結婚の儀式だけは、あげなければならないのですからね。実に馬鹿げたことですよ、これは! いや、おそろしく馬鹿げたことなんだ、これは!」 「でも、お二人は、結婚式をしなければならないんでしょう? それって、何とかならないんですか? 形だけあげて、すぐに別れることはできないんですか? 思いきって、離婚をするとか」 「リコンをする? 何のことですか、それは?」 「夫婦が別れることよ。ていうか、結婚をやめること」 「結婚をやめる! なんという、けったいな習俗! さすがは、異世界から来ただけのことはありますね! 二人がすぐに別れるというのは、これは無理ではないでしょうかね。何しろ〈天球院〉との約束だからなあ! こればっかりは、私どもの力では、どうすることもできないのですよ。どうにも仕方がないんですよ、こればっかりはね。何しろこの約束は、〈天球院〉も認めたものですからね。〈天球院〉を出し抜くことだけは、絶対に無理だろうからねえ」 アヨングはあらためて、クッションのきいた座布団に座り直すと、二人の声のする方に、向きを変えた。 「よろしいですか。正式にこの『結婚式』をとりやめにするためには、約束をかわした当事者である、わたくしの父上とカンバーランドの国王陛下とを、同時に思いとどまらせる必要があるのですよ。さもなければ、この誓いを破った二つの国同士は、たがいに滅亡を避けられませんよ!」 「でも、あなたがいやだと言えば、それっきり、うまくおさまるんじゃないんですか?」 「それができるならば、悩んだりはしませんよ」 若者はゆりかの言葉に、悲しげに首をふった。 「あれは一体、何の像ですか? わたし、さっきから気になっていたんですけど」 ペン子が、部屋の片隅に置かれた、ブロンズ製の大きなけものの像を指さした。 ゆりかがそばに寄って確かめると、それは、稲妻のようなたてがみをはやした、一頭の雄のライオン像で、尻尾を天に向かってぴんと伸ばし、口には丸い獲物をくわえて、エメラルドをはめ込んだ両の目を、ぎらぎらと光らせている。 そういえば、さっき庭園を横切った時にも、これと同じ像を、いくつも見たような気がする。 じっと目をこらすと、その口の中の丸い獲物は、炎の尾を揺らめかせた太陽であることがわかった。とても奇妙なことに、そのライオン像は、たてがみから尾の先までが、しっぽりと濃い目のみどり色に塗られていた。 ゆりかが若者をふり返ると、アヨングは目が見えているように、 「ああ、それはきっと、〈聖なる預言者ヌウ=エル〉の像のことでしょうよ。またの名を〈ソーラス(太陽)をとらえたる、若きみどり獅子〉―― 国中どこへ行っても、見受けられる像らしいのですよ。どうしてその像が、口に丸い物をくわえているのか、なぜ、その色がみどり色なのか、誰も知りません。そもそも、わたし自身は、その像を一度も見たことがないうえに、“みどり色”ってどんな色なのか、そもそも、“ライオン”とか“太陽”って、何のことか、さっぱりわかりませんのでね」 「へええ、そうなんですか!」 ゆりかは、ペン子と二人で、〈ヌウ=エルの像〉にもっと近づいて、しげしげとながめ始めた。 その時、部屋の入り口の垂れ幕が開いて、黒い三角形のあごひげを生やした、一人の身なりの立派な、しかし、人相は相当にいやらしい猫背の小男が、すそ長の衣を引きずって入って来るなり、おやというように、あたりを嗅ぎ回り始めた。 「誰だ? 物乞いか? はたまた曲者か? 物乞いならば、めぐんでやろう! 曲者ならば、討ちとってくれよう!」 「おおせ、めっそうもござりませぬ。殿下の腹心の部下にして、奴隷めにございますですよ」 「おお。その声は、先ほどのラル・シンだな?」 「おおせ、さようでございます、殿下」 あごひげの小男は、さっき回廊でアヨングに話しかけていた、三番目のきんきんする声の主らしく、おでこを床にこすりつけんばかりにして、おじぎをくり返していたが、その目は油断なく、部屋の隅々を見渡している。 「いかがいたした、ラル・シンよ? その方、気でも失ったのか? それとも、おまえのいつもの悪だくみが、そのひたいの奥で、またぞろ、頭をもたげたのか?」 「い、いいえ、め、めっそうも―― ご、ございませぬです。いつもながら、わかぎみさまのお部屋の素晴しさに、手前しばし、感嘆のあまり、言葉を失っておったところでして」 「嘘を申せ。おまえが、部屋の飾りなんぞに、われを忘れる男かどうか、声を聞けば、たちどころにわかるのだぞ」 それはその通りだろうだと、ラル・シンは心の中で舌打ちをした。 それでも、気をとり直すと、 「ただ今この親書を、じきじきラル・シンめが、わかぎみさまに持参してまいりましたのでございます。おぼえめでたきカンバーランド国王のお使者が、直接、殿下におめもじして、このお手紙をお手渡しする光栄をたまわりたく願うのを、かく申すラル・シン、異をとなえるお使者を無理やりに説き伏せ、殿下にお届けすることに、あいなった次第です」 「わかった、わかった。そちの名前は、一度聞けば十分だ。それで、誰からのものなのだ? まさか、国王じきじきのお手紙ではあるまいな?」 「め、めっそうもござりませぬ。お使者の申すのには、ロデリア姫さまからの、お、お文(ふみ)とのこと」 突然、部屋の隅のライオン像のあたりから、はっと息を飲む音が聞こえた。 ラル・シンはいぶかしそうに像をふり返り、首をかしげた。 「何? カンバーランドのはね返り姫から、私あてに手紙がまいったとな? あいわかった、その手紙、ここで開いて読め」 「ええっ? 今ここで、でございますか? およろしいのですかな?」 ラル・シンは意外な感じがこもるよう、わざとらしい大声で言ったが、実際は、ここへ来る途中、どうしたら自分の前で、アヨングに手紙を読ませることができるか、思案投げ首をしていたので、内心ほくそ笑んだ。 「大声で読むのだぞ。私は、密議やはかりごとは、大きらいだからな」 「おおせ、かしこまりましたわい」 手紙は、身分の高い人がしばしば私用で用いる、絹糸を細かく織り込んで、上からうわぐすりを塗った、極上の便箋用巻物に、走り書きの飾りつきの草書体文字で、したためられていた。ラル・シンが声を出して読み始めると、ゆりかはライオン像のかげで、耳をそばだてた。
プンデルカンド国ご領主 ラフレシア大公殿下がご子息 アヨング・オキ殿下 足下
殿下。時間がないゆえに、前置きやあいさつは、はぶかせていただきとうぞんじますわ。このお手紙を使いの者に持たせ、あなたさまのみもとへ届くよう、図らせます。ご無礼の段、ひらにご容赦くだされたく、神聖孔雀のアルゴスのつばさの、貴きまなこの紋様にかけまして、殿下のおなさけを、乞い願う次第です。 ああ! 殿下!―― 殿下と呼ぶことをご容赦ください!―― 今、私たちの国にさし迫っている、かくも厄介な問題について―― このたびの―― 例の〈婚礼の儀〉に関しまして、殿下におめもじして、じかにお話しかないませんでしょうかしら? 日取りや場所や刻限については、あなたさまがご都合のよいように、お決めになられて結構ですわ。供の者を二、三人ばかりお連れになられて、またはお一人ででもお越しになられて、この件について、内密に、ご相談をいたしたいのです。 ああ、殿下! 殿下! この件は、双方の父たちには、ないしょにたのみますわ。あなたさまも、おなごの私をかわいそうに思うなら、勇気ある男子の名誉に賭けまして―― ご領主のご子息で、世にもおぼえめでたき大公殿下のお世継ぎならば、高貴なるお生まれのその名を重んじて、言うまでもありませんでしょうけれど―― この件を誰にも伝えず、一人だけで、あるいはお供を二、三人だけお連れになられて、この件でのお話しあいに、ぜひとも、ぜひとも、応じてくださいませ! どうか、どうか―― お情け深い、お優しい殿下!―― この気の毒な姫の、心からのお願いを、ぜひとも、ぜひとも、お聞き届けくださいませ! 当方の送り寄こす使いの者に、色よいご返事をお持たせになられて、どうか、どうか、このわたくしめの窮状を、ぜひにも、ぜひにも、お救いくださいませ!
あなたさまのご厚情におすがりするほかすべのないあわれな小ひばり カンバーランド王国第一王女 ロデリア・ユキノーム
拝
追伸 どうか、どうか、このお手紙のことだけは、くれぐれも、あなたさまのお父上さまにも、どこのどなたさまにも、ご内密にしていただきとうぞんじますわ! 殿下のお情け深い、そのお心を信じておりますわ! (私って、疑ってばかりいて、馬鹿ですね)
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