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作品名:みどりの孔雀 作者:zamazama

第12回   マンダレー夫妻
     マンダレー夫妻




 『小松』のおばさんにくわしい目撃地点を聞いて、ゆりかはアーケードをあとにした。
 『小松』のおばさんに、自転車のことを聞けばよかったと、ゆりかは後悔した。あわてて逃げたのなら、自転車はまだその場所に、置き去りにしたままかもしれなかった。
 おばさんが教えてくれたのは、あちこちに木立ややぶがうっそうと茂った、町はずれのさびしいお屋敷町だった。ゆりかが電柱にかかげられた、所番地を見て歩いていると、
「ドウカ、シマシタノデスカ、アナタ?」
 ゆりかの背後から、外国なまりの日本語が聞こえてきた。
 ゆりかがふり返ると、長身の、もしゃもしゃした茶色い髪の毛を生やした、外国人の夫婦づれが立っていて、にこにことゆりかを見下ろしていた。
 外国人の男の方が、
「ドウカ、シマシタノデスカ?」
「い、いえ・・・あの・・・その・・・あの・・・」
「キョウハ、イイテンキ、デスネ。ワタクシタチハ、フタリデ、サンポヲシテイル、トコロデスヨ。ソコノ、チイサイ、アナタ。アナタノ、シタハ、ネコニ、トラレマシタノ、デスカ?」
「あ・・・あの・・・あの・・・わたし・・・エーゴ・・・だ・・・だ・・・駄目なんです・・・ノ、ノ、ノ・・・ノー・イングリッシュ」
「ハハハ。ワタクシモ、エイゴハ、ハナセマセン。デモ、ニホンゴデ、ダイジョウブ」
「ええっ! アメリカ人も日本語、話せるんだあ。すごぉーい!」
「ワタクシタチハ、あめりかジン、デハナイ。ワタクシタチハ、ホカノ、クニカラ、キタ。ワタクシノ、ナマエハ、じょせふ・まんだれート、イイマス。コレハ、カナイノ、いぶりんデス。アナタノ、ナマエヲ、キイテモ、イイデスカ?」
「あ、あの、て、て、て、天堂―― ゆりかです」
「ソレデ、アナタハ、ナニヲ、ヤッテイタノカ?」
 家内のイブリンさんが、急に夫の耳もとにささやいた。
「オオ、ソウデス、ソウデス。ワタクシドモノ、ヤシキニ、イラシャテ、クダサイト、ワタクシノ、カシコイ、ツマガ、モウシテオリマス。サア、エンリョシナイデ、ドウゾ、ドウゾ。イキマショウ、イキマショウ」
 ゆりかがためらっていると、マンダレーさんの目がぎらりと光った。そのとたん、ゆりかの体に電流のようなものが流れ込み、ゆりかの体は相手の言うなりに動いていた。
 三人はゆりかを真ん中にして、歩き始めた。
 にわとこのやぶに囲まれた、西洋風のお屋敷の、大きな黒い鉄の門の前に到着すると、隠しボタンでもあったのだろうか、ライオンの頭飾りのある、装飾細工のついた門が、ゆっくりとすべるように、横に開いた。
「ココハ、キニイリマシタ、デスカ?」
 マンダレーさんがたずね、ゆりかの返事を待たずに、三人は車寄せを通って、玄関まで到着した。
 玄関ホールの床は大理石作りで、高い吹き抜けの天井が、家の中にいることも忘れさせるほど、豪華で素敵だった。正面の手すりつきの、らせん階段の横には、ランスと呼ばれる長い槍を持った、西洋風のよろい騎士が、見張り番をするように立っていた。
「ドウゾ、オクニ、ハイッテクダサイ」
 マンダレー夫妻は、ホールの左側の客間にゆりかを通すと、自分たちはお茶とクッキーを用意するために、その部屋を出て行った。
「オマタセ、シマシタ、デショウカ?」
 ゆりかが室内をながめていると、マンダレー夫妻が戻って来て、ティーポットとティーカップ、クッキーの皿の乗ったお盆を、どかん! とテーブルに置いた。
「サア、アガリナサイ、コドモサン! タクサン、タクサン、アガリナサイ! イマスグニ、アガリナサイ!」
 マンダレーさんが命令した。





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