“土をにらんで 聖アルゴスのクジャク スープを作ろう ニワトコの苗と
犬をすこうし 猫をちょっぴり 鍋を煮立てて 一昼夜
つぎの朝には できあがり しゃっくり木切り 小鬼の木
赤ん坊泣いても 包丁みがけ
血の雨走れ イボとれろ”
(ゆりかがカンバーランド王国の イパメルから教わったおまじない)
第一部 家の近くで・・・
夕焼け
ゆりかはせまい、せまい空き地の隅っこに積み上げられた、丸い、丸い土管の上で、さっきから足をぶらぶらさせて、西の空をながめていた。早くも日はかたむき、あたりには夜の気配が立ち込めると、そこかしこの小さい家々からは、夕食の支度にとりかかっているらしい物音が聞こえてくる。 しかし、ゆりかは家に帰るつもりにはまるでならなかった。頭の中では、さっきからいやな考えがうずを巻き、ゆりかを苦しめていたのだ。 (学校さえなかったらなあ。家で勉強できたらなあ・・・まるで毎日、牢獄だもの) ゆりかは内気で、体育が大の苦手だった。 今日も朝から飛び箱とマット運動があり、四段飛びができなかったゆりかは、みんなの見ている前で、何回も飛び直しをさせられ、べそをかかされたのだ。 家に帰ろうと、土管の上で身支度を始めたゆりかは、空き地の隅で、何か小さな光るものを見つけた。 そばに駆け寄って、確かめてみると、 「まあ、ブローチだわ! きれいな花びら模様の、銀色のブローチよ!」 真ん中に真紅の宝石がはめ込まれ、今にも吸いこまれてしまいそうなほど、きれいだった。 「これ、本物の宝石じゃないわよね? おもちゃなら、私がもらってもかまわないわよね? あっ、いけない! 今日はテレビで『パーマン』があるんだっけ!」 ゆりかは急いで、ブローチをポケットにしまうと、あわてて土管に駆け戻り、ランドセルを背負って、一目散に駆け出した。 空き地の隅っこに、突然、凸凹した二つの人影が現われた。 見るからにちぐはぐな、のっぽとふとっちょの、黒づくめのマント姿の二人組だ。二人はゆりかを見送ってから、風を巻き上げて消えた。 まるで、よくないことの、前触れか何かのように・・・。
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