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作品名:マイティーリリー 作者:zamazama

第47回   47
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 直径約二○○マイル、雲の幅が七五○マイルもある、大西洋で突如発生したハリケーンは、育ちざかりの健康優良児のように、毎時八千から九千万トンもの海水を水蒸気として吸収すると、刻一刻と北米大陸に接近しつつあった。中心気圧一○五六ヘクトパスカル、瞬間最大風速、毎秒一七○フィート〜二三三フィート。
 ハリケーンが直撃したフロリダ半島では、五千以上の家屋が倒壊または消失し、二万人以上が家を追われた。国土安全保障省に属するFEMA (フィーマ) (連邦緊急事態管理庁)と各州・各郡の危機管理局とが対応し、総計三百万人の住民に強制避難命令が出されたが、死者・行方不明者は千人を超えた。二次災害に備えて、州兵やレンジャー部隊が動員され、大統領の激甚災害宣言の布告も予想された。
 貪欲で向こう見ずな暴風雨のスカートにつかまらないよう、沿岸警備隊から各船舶会社に退避勧告が出され、該当する船舶は安全な港に避難し、あるいは彼女の手の届かない沖へと脱出したが、不幸にして逃げ遅れた船がいた。
 獲物がつかまったのは、海ばかりではなかった。一機の旅客定期便が折りからのエンジントラブルでコースをはずれ、目的地から最寄りの空港へと迂回する途上、突如発生した暴風圏に呑み込まれてしまったのだ。
 くだんの飛行機、アストリア航空四七四便は、地獄に向かってまっしぐらに降下していた。四つあるエンジンのうち、第三、第四の二つが落雷のために火を吹き、第一エンジンも油圧系統に変調をきたしていた。
 パイロットは死に物狂いで機体の制御をとり戻そうと、オートパイロットを切り、操縦桿と格闘していたし、添乗員たちも悲鳴をあげる二百人の乗客を落ち着かせるため、絶望的な努力を続けていた。アルメニア人のフライトアテンダントが、手と足を使って機内を後部へと移動し、恐怖に駆られて立ち上がった乗客を席に戻そうとした。
 機体が乱気流に巻き込まれると、シートベルトをはずしていた乗客たちが、何人もはね上がり、フライトアテンダントも床や天井に叩きつけられ、アフリカ系アメリカ人のビジネスマンの上に尻持ちをついた。
 機体の後部、右寄りの座席にすわっていたトルコ人の少年が、窓から外を見て叫んだ。
「ママ、見て! 天使がこっちへ飛んで来るよ!」
 その時、四七四便の機体が、すうっと浮かび上がった・・・




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「よし、わかった。そのまま待機して、次の命令を待て」
 ゴードンは受話器を置き、ワシントンの秘密の回線を通じて、ペンタゴンから基地の司令官室に回されてきたその通話を、乱暴に終えた。
 電話はある空軍基地の司令官からで、コースを外れて飛行する民間の旅客機を追跡中、当該機に向かって飛んでくる、一つの異常な輝点 (ブリッブ) を、レーダー上に発見したというのだった。
 それこそゴードンが待っていた連絡だった。ゴードンは間髪を入れず、後ろの副官をふり返った。
「オーケー、畜生め。やつが現われたぞ」





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