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作品名:マイティーリリー 作者:zamazama

第32回   32
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 レスター・ヘイシーの手紙 (続き)。
                                                                              
「わたしが夢で見せられたことどもを信じるならば――神よ、あの夢のよって来 (きた) るみなもとの、定かならんことを!――アトランティス人たちの文明を特徴づける外的要因の一つに、巨大な輸送手段がある。夢の中でわたしは見たこともない奇怪なシルエットを持つ飛行船や、ロケットとしか思われない形状の飛行機械の群れが、町中に並んだ尖塔の上を飛びかい、荷物や人を上げ下ろししている様を見た。その乗り物のいくつかは、宇宙へも航行できるらしい。
 わたしはまた一団の科学者が、町をそっくり一つ (あるいは町としか思われないほどの巨大な乗り物をか?) を空中に浮かび上がらせる実験をしているのも見た。かれらはそれを、不思議な水晶の持つ力を利用することで行おうとしていたらしく、実験が失敗するごとに、甚大な被害が地上に出ていた。
 この水晶は、その後アトランティスの世界を夢に見るたび、姿形や大きさを変えて登場してくる、純白の輝きを持つ巨大な石の結晶体だった。かれらはこの石のことをツーオイ石、またはつづめてただ『石』と呼んでいた。どうやらアトランティス人たちは、われわれ現代人が電気の力を依り頼むように、この水晶の秘めたる特殊な形態のエネルギーを、頼みにしているらしい。わたしは水晶から差し出す光線が人間を炎に変えるのを見たし、何もない空中に山が浮かび上がるところも見た。それが文字通りの意味なのか、何らかの象徴、寓意なのかはわからない。石は上手に制御されることで、計り知れないエネルギーとパワーを、アトランティス人に与えている様子だった。
 もともとアトランティスの人間は、われわれの尺度で計ると十二分に霊的な存在と言えたが、石に含まれる独特の放射する場のようなものが、その能力をいちじるしく高めているように思われた。それがかれらのあの特異な出自、すなわちその起源を宇宙の他の天体に依拠することからくるものかどうかはわからぬが、どうやらアトランティス人たちは、人間が生まれながらに内に秘めている力を、ある程度引き出すことができる習慣を持っているらしく、わたしはそれがかれらの人生観と宗教観によるものと同時に、かれらの食生活による影響なのだということを、夢の中で見た**(本文欄外に注記)。
 かれらは人間の魂の潜在能力を引き出す、ひどく日常的で実際的な知識と慣習とを持っているのだった。そして、もともとあったそれらの資質を、石に秘められた力が増幅しているらしかった。魂――あえてこの不確かで、不正確きわまりない表現をとることを、お許し願いたい。アトランティス人たちは、この種の問題についても、秀でた独特の知識体系と哲学とを持っているらしいのだが、その種の知識はわたしが目覚めると同時に忘れてしまうか、例の《忘却の幕の番人》に記憶を消されるかするらしいので、まるで思い出せないのだ。
 だがアトランティス人たちが、われわれが《魂》とか《心霊》と呼んでいるような、お定まりの空虚な物の見方をしていなかったことだけは覚えている。わたしは、かれらのいわゆる形而上学を知り、夢の中でショックを受けたからだ。
 わたしはしまいに、水晶から放たれたいくつかにわかれた光線が、人体に有為ないくつもの影響をおよぼし、アトランティス人たちの肉体と精神の上に、並々ならぬ変化を生じさせていることに気がついた。光を浴びた者の中に、一種の突然変異ともいうべき《奇跡児たち》――または《罪なき子ら》が生まれ、しかもかれらは他のアトランティス人たちに比べて、強健で並外れた体力と知力を生まれながらに恵まれているらしかった。おまけに《罪なき子ら》は、一種のテレパシー能力と水晶を制御できる特別の力を有しているらしく、おおいにかの世界で尊敬されているようだった。
 そこが――異質な存在を異質ゆえに排除せず、むしろかえって尊ぶところが――われらの世界とアトランティス世界との、大いなる違いだったと言えよう。《罪なき子ら》はおたがい同士で交わり、子を生んだ。その子供らが、さらに契りあって子孫を生む。優れた素質や能力が遺伝継承され、継承されるだけではなく、『濃縮』され高まっていった。わたしはアトランティス世界の人間たちの中に、ある種の特権階級が生まれるいきさつを、目のあたりにしたわけだ。
 当然、遺伝学上の法則に則って、代々の《罪なき子ら》の中でも、さらなる突然変異がたびたび生じた。それら《奇跡児》中の《奇跡児》とも言うべき連中の中には、空を自由に飛行する者、心と心で交信する者、おどろくべき予言のわざをおこなう者、心霊医術にたけた者などがいて、かの世界で一種の生き神として崇められ、敬われているようだった。かれらは持って生まれた能力の代償として、生まれてからある時期がくると成長が止まり、幼な子の姿のまま数百年もの時を過ごすと、やがてろうそくの炎が燃えつきるがごとくに、急速に燃えつきて、その生涯を閉じるのだ。そうしてかれらは、かれらに与えられた数世代を光のもとに照らすという高貴なる使命を終え、無限の闇の中に帰っていくらしかった。
 かれら《奇跡児》の中の《奇跡児》とも言うべき、《神の子》たちが、申し分のない公平さと行き渡った徳と正義とで、かの世界を永きにわたって幸福に支配しているさまをわたしは見た。こちらの世界の人間たちにとっては、信じがたく、また承服しがたいことではあったろうが、完璧な徳ある者に導かれた、ある種の独裁体制が、この世に至福の『代理天国』とでも呼ぶべき世界を生み出しているさまを、わたしは見たのだ。
 だとすると、われわれがこの地上にあると信じるところの、民主主義政体の、正義や理想とは何なのだろう。
 それはともかくとして、わたしは夢で見たことが、この世界でかつて現実に起きたことだと、いささかも疑わずに信じている。根拠はまるでないが、そう固く信じて疑わぬ。なぜならば、われらの世界にあっては『理想』や『幸福』がめったに手に入らず、また手に入れたと思うや、すぐさま指のすき間からこぼれてむなしくなるように――それと同じことが、かの世界にも起こるのを、わたしは夢の中ではっきりと見たからだ。
 それは『幸福』とか『絶頂期』にある人間に、いやでも襲いかかり、錆が金属を腐食するように、人間の良心と正常な判断力とを、情け容赦もなく腐敗させていく、『慢心』という名の怪物だった。それは見慣れないが、目新らしい、珍しくて気のきいた神秘的な信仰という形をとって、かの世界にあらわれた。かれらは異世界の、自分たちがその素性も正体もよく知らない、怪物のような神の像を好んで刻むようになり、それに捧げ物を捧げることで、自分たちの望みをかなえてもらうのだという、ふりを始めた。それはあくまでふりらしく、最初は上流階級たちの座興のようなもの、単なる気のきいた洒落か冗談のつもりらしかったが、あらゆる嘘がそうであるように、ついた当人らがそれに縛られて、身動きができなくなるまでに、複雑怪奇さを増し、水が低きに流れるように、代が経るごとに、さまざまのバリエーションと枝葉の些末な《教義》がつけ加わり、やがてアトランティスの全土に渡って、人の心を奪うまでになった。かれらは純粋さにおいて秀でていたのと同様、いや、それだからこそ、なお一層激しく、堕落と腐敗と怠惰と醜悪の極みに、転げ落ちたのだった。
 もちろん、今の世においてもそうであるように、いくら下に向かって落ちていくとはいえ、ものごとが一直線に進んでいくことは、稀である。数えきれない改革の嵐と、小さな、あるいは全地を覆うかと思う大きな争いとが並行して、あるいは順繰りに起きた。後悔と残愧の涙が流され、誓いと反省の叫びがあちこちで湧き上がることも、しばしばであった。それはいかなる世界のいかなる国の歴史といえども、そうであろう。だが、数万を単位とする長の年月にわたって、アトランティスの国土は、あたかも巨大な船が命脈尽きて海中に没するが如く、ゆっくりと確実に堕落していった。その頃、例の信仰は左道魔術のたどるべき道をたどり、生きた同胞たる人間を鬼神の生贄に捧げるという、鬼道の中の鬼道ともいうべき、野蛮さのきわみにまで墜していた。かつてあれほどの栄華と繁栄とを誇った大アトランティス世界は、版土の巨大さにおいては、進化の極致に達した先史時代の獣のように、頑迷固陋 (がんめいころう) と化し、その貪欲さにおいては、悪徳を飲み込んで肥え太った豚のように、一層醜悪獰猛 (しゅうあくねいもう) さを増して貪婪悪食 (どんらんあくじき) となっていった。
 そして、ある日とうとう、恐ろしいことが起こったのだった・・・」


 (本文欄外の注記)**わたしが夢を通じて知ったアトランティス世界の起源を表わす神話では、故郷の天体に帰るすべを失った異邦人たちは、やがてかの地 (地球) の先住民族と交わり、それがアトランティス人たちの直接の祖先となったとされている。
 だが果たして他の天体と地球の生命体とのあいだに・・たとえ良く似た形態を持つ高等生物とはいえ・・いわゆる一種の《民族的混血》とも呼ぶべき関係が成り立ちうるか否かは、わたしには判断できない。
 わたしの受けたお粗末な教育をもってしても、いかにそれぞれの惑星の進化の過程が育んだ高等人種同士とはいえ、人間同士のあいだにあるような肉体的交わりが、原アトランティス人と地球の原住民とのあいだに成り立ちとうるとは、到底思えない。それはたとえて言うならば、人間と高等な類人猿 (たとえばゴリラのような) とのあいだの結婚すら、想像させる愚説ではないか。
 だが一方で、人類の歴史中には他でもない、ゴリラの子種を身ごもった女性の例があるのも、また確かなことである。
 これらのこともいずれ時が至れば、それ相応の知識を持った、いわゆる専門家筋の研究によって、あきらかにされる日が来るものと確信している。
 わたしがかく申すのも、わたしはかつてこれらのことをひどく気に病み、あまつさえ、これらの夢で見た非科学的な事実は、ひょっとしたら、わたしが見ているのが予言の夢でも何でもなくて、ある種の精神病が生んだ、ひどく込み入った妄想であることを証拠立てるものなのではないかと、疑ったからだった。それで、不安に思ったわたしは、この頃にはすっかり日常的な習慣になっていた夢判断で、確かめてみることにした。
 するとおどろくまいことか、わたしは、その晩の夢の中で、以下の回答を受け取った。すちわち原アトランティス人が持つ科学力をもってすれば、かれらはある惑星の生物を構成する固有の根本原子を、その性質を損なうことなく、自由に組み替えることができるのだという。それはちょうど、ある言語で書かれた書物を、内容をまるで変えることも、損なうこともせずに、まったく別の言語に書き換えるようなものだと言う。生きた生物にあって、果たしてそんなことが可能なのだろうか。
 夢の中で、わたしは今書いた通りの象徴をもって語られたので、それが実際の科学の世界でいう、どんな学問に相当するのかまではわからぬ。ひょっとしたら、まだこの世界には誕生していない種類の、学問なのかもしれぬ。わたしはこれまでにも、いわゆる依頼者の《リーディング》を通して、ごく近い将来に、人類の持つ科学技術が飛躍的に進歩発展することを、わけても物理学や生物学、医学の世界に於いて、長足の進歩があることを確信している。
 そればかりか、わたしはある男の《リーディング》を通して、今世紀中に人類がこれまで誰にも不可能であると思われていた、ある偉業を成し遂げること、それは、その時まで人類にとって荒唐無稽の代名詞にすらなっていたたわごとで、しかもそれはわが同胞のアメリカ人たち――神よ、かれらを祝福したまえ!――によって成し遂げられるだろうことを、確かに知っている。
 この手紙を読むだろう貴君。貴君はわたしが、今世紀の中頃には、月世界が人類の蹂躙を受けるだろうと書いても、さほどはおどろくまいであろう。そればかりか貴君は恐らく、その偉大なわが同胞が、全人類の歓呼と祝福を受けて、名誉の凱旋をするところを、実際に目にしておられるやもしれぬ。
 ああ、名も知れぬ友よ。わたしは貴君が、すこぶるつきにうらやましい!!!




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