カウンセリング室を出ると、廊下の右突き当たりにある裏口から、捜そうとしていた人物が姿をあらわせた。ただし乾と佐々木亭に肩を抱えられて半ば引きずられている。 「佐々木亭、どうしたの!?」 「取井ちゃん、遠藤! 保健室のベット空いてるかなあ。ちょっと見てきて」 「お、おう」 遠藤は保健室へ、私と六道先生は会長に駆け寄った。 彼はぐったり頭を垂れ、整った髪の間から見える肌は蝋のように白く、こちらも血の気が引いた。 「会長。会長!」 「気絶してるだけだ」 そう言う乾も青ざめている。初めて見る表情に、先生の言葉が脳裏を横切った。 「どうしたの、いったい」 「わからない」 「乾、空いてる!」 「よし」 私も乾を追おうとして、足がすくんだ。会長を連れていく乾の背中は新しい土で汚れ、まるで今しがた校舎裏で格闘でもしたかのようだった。その相手は、まさか。
どっと押しかけた私たちと入れ替わりに、保健室にたむろしていた生徒たちがあわてて出ていった。不服を言いかけた者もいたが、運び込まれた人物の様相を見て、素直に場所を明け渡した。 白すぎるベッドに横たえられた会長を、我先にのぞきこむ。それでも眉ひとつ動かさない姿は、私の不安をつのらせた。 「はいはい皆そっちに行っててちょうだい。大丈夫だから、先生にまかせて」 保健の先生に追い立てられ、六道先生も含めて全員がカーテンの外に追い出された。 カーテンの中を気にしながら待っていると、うろうろと歩き回っていた遠藤が乾に食ってかかった。 「おい。吉備になにがあったんだよ」 胸ぐらをつかまれた乾も苛ついた目でにらみ返す。いつも以上に喧嘩腰のふたりの間を、佐々木亭が入った。 「まあまあ。遠藤、落ち着いてよ。最初に見つけた僕もわかんないんだからさ」 佐々木亭が彼を見つけたのは、昼休みにはいってすぐだったらしい。 「生徒会室前の廊下の窓から裏の原っぱが見えるだろ。そこから、裏を吉備太がふらふらって歩いてくのが見えたんだよ。あれって思って声かけたんだけど、ぜんぜん聞こえていないみたいでさ。ちょうどタイミングよく乾も来たもんだから、ふたりで行ったわけなのさ。乾は僕より先に走っていっちゃったけどさ」 「そしてどうした」 六道先生が促す。 「僕が着いたときには、吉備太は草むらにばったり倒れててさ。乾と呼んでも叩いても、もうあんな感じだろ。まず保健室行かなきゃって思ってさ。取井たちも心配するだろうから先にメール打とうと思ったら、取井からメールが入ってたのに気づいた。それで電話してから、乾と連れてきたわけ」 遠藤が佐々木亭をにらんだ。 「あいつ、なんでそんなとこにいたんだよ」 「僕に言ったってわかんないよ。猫でもいたんじゃないかな」 「猫?」 「僕が行ったとき、なにかがパッと逃げてったんだよね。いや、あれは猫より大きかったかなあ。校舎のほうに行ったから、今頃どこかに隠れてるのかも」 私と遠藤は同時に六道先生を見る。その影が彼になにかしたのかもしれないと思うと、絶望に身体から力が抜けそうになる。 頼みの綱も唇を噛みしめて、わずかにふるえていた。 「あ、目が覚めた?」 保健の先生の声に弾かれて、六道先生を始め、男性陣が一斉にカーテンの中へ飛び込んでいく。私は結果がこわくて動けず、おそるおそる人垣の間から会長の顔をのぞき見た。 彼は目線を泳がせ、自分を覗きこんでいる面々を認めるなりきょとんとする。顔色はまだ青白いが、瞳は私と同じ、黒い色だ。 「あれ……どうして、なに?」 かすれてはいるが彼の声だ。どこもあの化け物と同じところはない。 大丈夫だった。無事だった。胸をなで下ろしてそのまま力が抜け、私はその場にへたり込んだ。 人垣の向こうから、六道先生が説明している声が聞こえてくる。 「ここは保健室だ。お前さんは校舎裏で倒れたらしい。ここまで友達が運んできたんだ、礼を言うんだな」 「吉備太、死んでるかと思ったよ! 真っ青で手とか冷たくてさ。乾なんかボクより大騒ぎしたんだぜ。おかげでこっちは冷静になれたから良かったけどさ。ああ、生きててよかったよ、本当。吉備太、生きててよかったあ」 「俺は騒いでなんかいないっ」 お喋りの止まらない佐々木亭に、乾がむっとした声で言い返す。 「ありがと。亨、乾」 すまなそうに言う会長に、遠藤が話しかける。 「吉備、なにがあったんだよ。すげぇ心配したんだぜ」 間をおいて、返答。 「なんかよくわかんないんだけど、ごめん。裏に行った覚えはないんだけど……いや、行ったのかな。あれ?」 私は声だけ聞きながらがっくりと肩を落とした。健忘症にもほどがある。 「しっかりしろよ、吉備太。昼休みに入ってから忘れたとか?」 「購買に行こうと思って教室を出て、それから……。そこからよくわかんない、思い出せないなあ。なんで外にいるんだろうって思った気もするにはするんだけど」 動揺と不安の入り混じった声はなんとも弱々しく、漠然とした不安がせり上がってくる。 「なにか変な物でも食べたんじゃないのか。でなければアル中か」 六道先生の一言に、その場にいた全員が吹きだした。元気のなかった会長も、飲んだ覚えはないんだけど、と笑う。 「じゃあ疲れてるんだ、午後はここで寝ていたほうがいいんじゃないのか」 保健の先生が続ける。 「私もそう思うわ、そうしなさい。今、利用証明書を書くから、誰かに持っていってもらってね」 言ってカーテンから出てきた保健の先生と、床に座り込んだままの私は目を合わせる。 いろいろ見抜かれたのか、先生はやれやれと苦笑する。 「どこ行ったかと思ったら。こんなところで貧血起こしたみたいね。ベッドはまだ空いてるから、取井さんも休みなさい」 「はい……そうします」 私は素直にうなずいた。
五限目開始のチャイムが響く。 私は淡い黄色の防火生地カーテンに囲まれたベッドの中で、貴子にメールを打った。結局用事が終わらなかったのか彼女は姿を見せず、遠藤に鞄一式を持ってきてもらったのだ。今、保健室で寝てます。六道先生は良さげだったよ。送信してPHSを鞄に入れると、私はそのまま意識を失った。 目が覚めた時、保健室は静まっていた。 会長は眠っているのか、単調な呼吸音しか聞こえない。保健の先生もいないらしく、白衣の布ずれの音すらしない。出かけたのだろうか。ふいに出たくしゃみが妙に室内に響く。 「取井」 「は、はいっ!」 急に隣から話しかけられて、緊張に声がうわずる。カーテンで区切られているとはいえ、すぐ隣では会長が寝ていることに気づいた。とたんに鼓動が早くなり、顔も熱くなる。今さっき、具合悪そうなところを見たばかりじゃない。どうしてこんな時に意識するんだ。場の空気が読めないにもほどがある。よく考えたら、会長とふたりきりなんだ。こんな時はどんな話をしたらいいのだろう。 「今、何時かわかる」 あわてて取り出したPHSには、五限目の半分あたりを表示していた。 「二時二十分」 「ありがと」 ごそり、と寝返りをうつ気配がした。つい彼のようすを全身で察知するよう集中してしまう。どうしてなんだろう、いつもなら気軽に冗談を言い合えるのに、今はなにも考えられない。 「取井。あのさ、ずっと考えていたんだけど、昨日のあれ、なんなんだろう」 会長の疲れた声を聞いて、私は心が鎮まっていった。 自分が味わった恐怖と、それを誰かに言ったところで信じてもらえないだろう不安は、私もさっきまで抱えていた想いだ。六道先生に信じてもらえて、はじめてほっとしたんだ。 「会長。あれって、化け物なんだって」 「そうなの?」 意外なことを聞いたような声に、私はうなずく。 「六道先生が言ってた。あのお坊さんなんだけどね。あれはこの世に居てはいけないモノなんだって」 「そうだね。なんか、わかるな」 「映画とかでもあんなのは見てたけど、実際はすごく怖かった。食べられて死んじゃうって思った」 ふいに恐怖がよみがえり、悪寒が走った。 「取井。大丈夫だよ」 会長の、いつものやさしい口調に、すこし恐怖が流れる。 「みんながいるから、大丈夫」 「そうだね」 はっきりとした確信はないけれど、彼が言うなら大丈夫だと思えてくる。もう恐怖はなかった。 ベッドの中で、私はぼんやりと天井のシミを見つめる。隣で、ごそり、と動く音が妙に響いた。 「取井。倉庫に行って、怪我とかしなかった?」 そういえば、倉庫でなにがあったのか話していなかったんだ。 「ああ、うん。怪我は大丈夫。でも会長、よく来たよね。う、うんと助かったけど」 私のばか。すなおに嬉しかったって言えばいいのに、なんでごまかしちゃうんだろう。 会長はくすりと笑う。 「よかった。倉庫に行ったわりには遅かったから、気になって見にいったんだ。乾も興味ないみたいなこと言ってたけど、心配してたんだよ」 「そっか」 私も笑う。 ふと、天板の一枚が動いたように見えた。ネズミだろうか。わずかにずれて闇が覗く。カーテンの向こうにいる会長からは見えないのだろう、気づくようすもなく話は続いている。 「行ってみたら誰もいないから、入れ違いになったのかなって思ったんだ。だけど取井が助けてって言った声が聞こえたから」 私は相づちも打たずに天井を凝視していた。倉庫前で感じた戦慄が、今や全身をかけまわっていて身動きすら取れない。板はなめらかに水平移動して闇がひろがっていく。こんなに器用に動かせるのは、ネズミじゃない。 「なんか閉じこめられてたみたいだったけど、なにか引っかかってたの?」 会長は今、闇の中から覗いた手が天板にかかったことを知らない。でなければ会話する余裕なんてないはずだ。 私は自分の目がどうして閉じてくれないのか恨んだ。体はベッドに貼りついて動かないし、息もつまっているように苦しい。会長の静かな声が憎くも感じる。どうして天井の闇に気づかないのだろう。 「……取井?」 声にならない声で私は会長に訴える。会長、どうしよう。いま、一枚の天板が完全に外され、四角い闇が天井にできたの。胸元で握りしめたままの私の手も、恐怖のあまり力がこもる。緊張にあえいだ喉は乾ききって風穴のような音をたてた。 「取井。あれ、寝たのかな」 寝てない。それよりも、たすけて。 叫びたいのに、恐怖はすべてを凍りつかせたようで、まばたきすらできない。 血がこびりついた白い指が天板にかかり、ぐっと力がかかった。天井の闇に、金の瞳がふたつ浮かんだ。獲物を食らおうと見おろし、ぎょろりと会長の寝ているほうに動く。 そして山姥が音もなく顔をのぞかせ、血にまみれた牙をむき出しにして笑った。 「ヨコセェ」 「会長!!」 私は全身で叫んだ。 「こっちだ!」 隣からカーテンが一気に開けられると同時に、会長の力強い手に腕をつかまれ、そのまま懐のなかへ顔を押しつけられる。感じる胸板の硬さに、吉備たずなは男子だと今さら気づいた。遠藤より小柄で色の白い会長を、私は自分よりも弱いと思いこんでいたのだろう。 一瞬ののち、私のいたところに山姥が飛びおりた。きっと頭を上げて牙を剥く。 「グガアッ」 とっさに会長がカーテンを閉めたので、人型の獣は黄色い布に動きを取られた。抗うごとに金具の外れるカーテンに全身をからませ、くやしそうにヨコセと繰り返す。その様はうごめく執念そのものに見えた。 危機を脱してほっとしたのもつかの間、会長にベッドから降りるよう背中を押された。 「こいつの目的は僕だ。時間稼ぎくらいにはなる。はやく行って」 「会長は」 「僕はいいんだ」 彼はそう言って、懐かしい目つきをした。前を見ているのに、暗闇しか見ていないような、自分自身さえ拒絶した色だ。 私が過去に抱いていた想いを、その目は語っていた。 家庭崩壊寸前までいった私は、ひところ絶望しかなかった。両親は私の苦痛を見もせずにあれこれ習い事をさせブランドで飾りつけ、私は幼稚園の頃から吐き気を抑えながら受験に挑んでいた。両親は私を見ようともせず、私も救いようのない我が家に未来をあきらめ、いつしか離婚。それからも母に言われるまま生きる自分を拒絶し、抑え込まれた意思も否定していた。はじめて反抗してこの学校に入学し、貴子に会って、新しい世界と気の合う友達を得て、やっと救われた気がしたのだ。 はじめて吉備たずなの瞳を見たとき、過去の自分を重ねて心が苦しくてつらくなった。いつか力になりたいと思った。闇しか見ていない瞳をどうしても救いたかったんだ。 彼が推薦で生徒会長候補に出てすぐ、自分が会計として立候補したのは、貴子が私の側で日常の楽しいさまざまなことを教えてくれるように、私も彼を助けたいと思ったから。生徒会室で一緒にお弁当を食べたり、一緒に帰ったり、同じ時間を過ごしている時間はとても楽しかった。さっき、みんながいるから大丈夫だって聞いたとき、も彼を救えたような気持ちになったんだよ。 なのに今、絶望が彼を取り込みはじめている。彼自身も私の手を離そうとしている。僕はもういいから行ってと。 「行かない」 やさしい手を振り払う。ここまで来たのに、彼をまた暗闇に戻すなんて冗談じゃない。 「私がいるんだから、ちゃんと生きてよ」 「え」 「ん?」 彼の困惑と照れの混ざった表情に、自分がかなり恥ずかしいことを言ってしまったことに気づいた。本心とはいえものすごい台詞に、真っ赤になる。 そのとき、いよいよ布が裂けはじめた。カーテンは薄いわりに頑丈なようで手こずっているようだが、泥と血でよごれたするどい爪が顔を出し、切り裂きはじめる。突破されるのは時間の問題だろう。 「会長。一緒なら、きっとなんとかなるよ!」 「そうだね」 同意する彼はどこかうれしそうに見えた。すくなくとも、もう絶望の色はなかった。 すこしでも離れようとベッドを降りるが、窓側でスペースはかろうじて人ひとり分と狭い。会長は枕元にあった一輪挿しの中身を床にまいて逆さに持つ。私も武器になるものはないか探したが、見あたらなかった。 カーテンの穴から金の目が覗いた。 「ヨコセ、ヨコセエエエ!」 「下!」 会長に腕を取られてしゃがむ。言われて会長の意図に気づいた。ベッドの下から脱出できそうだ。私たちは激しくきしむベッドの下を、這うようにくぐった。顔にクモの巣がかかってもかまっている余裕はない。 ベッド下から出ると、薬品棚の前だった。会長はためらうことなくすべての戸に手をかけるが、いらついたようにガラス戸を叩く。薬品類が棚の中で落ちた。私は唯一の出入り口と格闘したが、泣きそうになりながら戸に訴えても、びくともしない。。これでは倉庫と同じだ。 「いやだ、開いてよ。頼むから」 「開かない?!」 駆けつけた会長も一緒に、引いても体当たりしても、指先や肩が痛くなるばかりだ。それに、これだけ体当たりしても誰にも気づかれないなら、廊下には誰もいない。助けは絶望的だ。 「くそっ」 会長が戸を殴ったとき、隣がカウンセリング室だということを思い出した。あの時追い払ってくれた人物なら、きっと。 「六道先生」 彼も気づいたようで、あ、と口が動く。 山姥がベッドのカーテンを引きちぎり、完全に姿を見せた。髪を振り乱し、目をつりあげて血まみれの牙をがちがちと言わせる。その顔は猛獣そのものだ。 猛獣は私たちを認めるや一直線に飛びかかってきた。 「危ないっ」 爪が届く寸前に横から突き飛ばされ、私はカウンセリング側の壁にぶつかった。会長も身を伏せてかわしたので、猛獣は戸に激しく体当たりした。ふたたび床で身構える猛獣からかばうように、会長は私の背中に立ちはだかる。 私は大きく息を吸うと、出るかぎりの声量で壁に向かって叫んだ。 「六道先生!!」 その時、びくともしなかった引き戸が勢いよく開いた。そこには六道先生が猛獣を仇でも見るように睨みつけて立っていた。 「なんだか気配がすると思ったら、隣とはな」 「先生!」 「じっとしてろ!」 言われたとおり、会長は立ったまま動かず、私も壁にはりついたまま目をみはる。 先生は袂から赤い数珠取り出し、仰々しく手にかけながら踏み入ってくる。猛獣は数珠のこすれる音に身体をびくりとさせ、恐れるように後ずさった。 「見つけたぞ。つまらん術も使えるようだが、観念しろ」 先生がもう一歩出ると、獣は突然こちらに向かって飛んだ。 「ヨコセ!」 悲鳴を上げる間もなく、のばした手が会長の左肩にめりこむ。 「うるせえ!!」 「ギャン!」 ほぼ同時に、数珠が獣の背中に当たった。獣は悲鳴をあげ、跳ねるように逃げて、天井の穴に飛び込んだ。天井が一度ドン、と鳴ったのを最後に、気配は遠のいていった。 間をおいて。 「あらまあ」 保健室が元の静けさを取りもどした時、四十代半ばの女性らしい声に私と会長はびくりとする。見ると保健の先生が六道先生の背中越しに顔を覗かせた。おっとりとした表情で入ってきたようだが、呆然としているだけかもしれない。 惨状は目も当てられないほどだった。ベッドを仕切るカーテンは無惨に引きちぎられ、薬品棚の棚にはひとつとして薬品が立っていない。生徒二人は埃にまみれている。どう見ても私たちが暴走した結果としか思えない風景だ。 数珠を拾った六道先生が、何事もなかったように話しかける。 「おかえりなさい。ちょっと生徒たちと話がしたくてお邪魔してました」 「あの、これはいったい」 「え。なにかありましたか?」 六道先生が肩越しにふり返ったとき、屋内すべてがぼんやりとにじんで形がなくなったのだ。そして一呼吸の間に色は物を象る。 「あらあ……」 私たちも保健の先生に並んで、声も出ずに立ちつくした。すべてが元の位置、元の状態に戻ったのである。確かにこの目で、切り裂かれたカーテンとひしゃげたカーテンレールを見たのに。 呆然とする私たちの中でひとり六道先生が落ち着きをはらっている。 「どうしました? なんか狐にでもつつまれたような顔してますよ」 「そうかもしれませんわねえ……。私、トイレに行っただけなのに、どうしてもここに戻ってこれなかったんですよ」 「ああ。そりゃあかなり疲れていらっしゃる。生徒たちはもう平気だって言うし、隣に連れていきますよ。先生こそ、今はゆっくりやすんでください」 「そうさせていただこうかしら」 「じゃあ、そういうことで。ふたりとも荷物持って来いよ。私に聞きたい事とかありそうだしね」 にこやかに立ち去る背中を、私たちはぽかんと見送った。
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