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作品名:生徒会鬼譚 作者:

最終回   14
開校記念日の翌日は快晴だった。
 昼休みに私が生徒会室のドアを開けると、遠藤が寝たまま片手を挙げた。
「遠藤だけ?」
「そ。まだオレだけ」
 室内は窓からの日射しでほどよくぬくもっており、私はまたあくびをする。遠藤は身を起こしておおきく伸びをした。
「あれからどうした?」
「あれって、帰ったあと?」
 遠藤はうなずいた。
 私たちは鬼を消したあと、緊張が解けて疲れが一気に来たのか、生徒会室に戻ってそのまま寝てしまったのだ。早朝、宿直の先生がノックした音で全員飛び起きたことが忘れられない。六道先生まで寝ていたし。血だらけだった身体は先生のお経できれいになっていたから良かったけど、まさか学校で夜明かしするとは。
「一旦家に帰ってから貴子んちに行って、DVD観てカラオケ行った」
「すげ。オレ、家で寝てたぜ」
 乾が入ってきた。ふたり同時に手を挙げると、目で応える。
「なあ。乾はあれからどうした?」
「休んだ」
 明確すぎる返答に私たちは黙りこむ。
「会長は」
「カウンセリング室。話をしてから来ると言っていた」
「ふうん。確かに話はたくさんありそうだもんね」
 緊急事態は回避されたとはいえ、会長が鬼に憑かれる危険がなくなったわけじゃない。彼だけじゃなく、私たちもこれからの対策を聞いておかないとならないだろう。
 廊下の喧噪を聞きながら、私はいつのまにか今までのことを思い出していた。
「信じられねえよなあ」
 こぼれた遠藤の言葉は、まさしく私の感じていたことだった。
 あまりにも多くのことが起こった数日間に、まだ頭がついていけない。寿命が縮む思いをしたのは確かだ。でも本当に私は魔物や鬼女相手にエアガンを撃ったのだろうか。
「信じられないよね。またあんなのが来るのかな」
 乾がためいきをついた。
「さあな」
「そんなこと言って、明日、来たらどうするよ」
 言った遠藤も含めて、私たちはぐったりソファーに身をうずめた。
 ノックと同時にあわただしく会長と六道先生が入ってきた。会長は疲れも見せずにすっきりした表情で、どこか楽しげだ。私は身を起こしただけで精いっぱいだったので、立ち上がって迎えた乾には今回ばかりは感心する。
「みんないるね」
 会長が言うなり鍵をかけるので、私は焦った。
「まだ佐々木亭とたあこが来てないんだけど」
「だからだよ。ちょっと僕たちだけで話したいんだ。それに中村さんもまだかかりそうだったしね。新聞局のパソ、調子悪いんだって? 今、亨がチェックしてるけど原因不明みたい」
「魔に冒されたのが局長だけで済まなかったんだろう。あきらめた頃に直るさ」
 会長は指定席に行き、六道先生は入り口前で立ったまま話し始めた。
「おとついはごくろうさん。話はわかっていると思うが、これからも退治しにいけるかどうか聞き」
「行きます!」
「行けるぜ!」
「いつだ」
 今度は私と遠藤も立ち上がり、怪訝顔を見合わせる。そんな姿に会長は吹き出し、先生も笑いをこらえていた。
「意気込みはわかった。さっき吉備にも言ったんだが、お前らも俺の部下ってことで上に報告する」
 私は驚きのあまり鳥肌が立った。
「実は上からスカウトしろと言われててな。俺無しで鬼を消した経歴は上も注目しているらしい。でも未成年だからな。しばらく見習いとして俺の部下という形にする。いいな」
「はい」
 全員、声をそろえる。たぶん昂揚している気持ちも同じだろう。
「鬼や魔物関連は身に染みてわかったと思うから言わないが、基本はどんなことも俺の指示があれば従うこと。ほか、今夜からでもお前たちにいろいろたたき込んでやるから覚悟しろ」
「のぞむところです」
 会長に並んで、皆うなずいた。
「寺に来た時にでも、また棍とエアガンを渡す。鬼退治が終わるまでレンタルしておいてやるから大事に使えよ」
 生徒会全員が先生に注目した。
「……終わる?」
 会長が鬼から解放されるなんて、不可能だと思っていた。しかし期待もむなしく、先生は肩をすくめる。
「さあ。でも憑かれやすいなにかを解く術があるかもしれないだろ。解放されるに越したことないしな。資料もどっちゃりあるから読めよ」
 がっくり肩を落としながら、ふいに嫌なことを思いだす。
 先日集めたアンケート集計がまったく終わっていない。
「集計、やらなきゃ」
 追って会長が怪談を話すように言う。
「実は再来週から中間テストがある」
「ぐああ。勘弁してくれ」
「遠藤。生徒会役員なら高校留年は避けろ」
 真剣に心配している乾に、私は吹きだした。
「言っておくが、鬼退治があるからと学生の本分はおろそかにするなよ。勉学優先、鬼退治は二の次だ。いいか、テストで常に平均点以上出さないと、そっちのほうでしごくからな」
 意気消沈する私たちに、先生は笑ってきびすを返した。
「話は以上。今日は寺に寄って帰れ。話もあるし、ザッハトルテ焼いたから食いにこいや。じゃあな」
 先生が出てすぐ、貴子と佐々木亭がやってきた。にぎやかに喋りながら入ってくる。
「本当にぜんぜん動かないね。中開けるか買わないと、だめな気がするんだけどさ」
「そんな費用ないってば。デジカメも自前なんだから。あやっち、やっほう。乾くんも元気?」
 ふてくされた顔から花開くように明るく笑う貴子に、私は力が抜けそうになる。本当にころころ変わる。
「じゃあ生徒会室のパソコンもらおうかな」
「それはすごく困るんだけどさ。頼むよ、中村ちゃん」
「裏の仕事はやめられないもんね。どう、あやっちも裏のお仕事、やってみる?」
「いいかもね」
 貴子のいかにも楽しそうな笑顔に、私はにんまりと笑った。
 私の裏の仕事は、まだ始まったばかりだけど。


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