Warning: Unknown: Unable to allocate memory for pool. in Unknown on line 0 Warning: session_start(): Cannot send session cache limiter - headers already sent in /var/www/htmlreviews/author/11456/11307/4.htm on line 4 チャンドラ 中華街の星たち
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作品名:チャンドラ 中華街の星たち 作者:hanaco

第4回   第三章 元町公園の戦い
第三章      「元町公園の戦い」



 翌日の日曜日。僕らは小公園に集結していた。

 小公園(しょうこうえん)は中華街大通りから上海路を抜けた突き当たりに位置する関

帝廟通りにある公園だ。正式には山下町公園という名称だが、この周辺では小公園と呼ば

れていたのだ。その由来も単純明解で、山下町公園と山下公園、文字と呼び名はよく似て

いるのだが、規模が比べようもなく違う。小公園は五十m四方のごく一般的な公園なのだ

が、山下公園はあの規模だ。どう考えても山下町公園の方が小さいから小公園と呼ばれて

いたのだ。と思う。確かにどちらも僕らにしてみれば遊び場であったが、毎日のこととな

ると小公園に集まる子供たちが多かったのだ。

 当時、小公園には様々な遊び場があり、関帝廟通りからの入口右手に砂場とドカンの遊

び場があった。ドカンは直径一m、長さ三mほどの大きさのものが三本ほどTの字に直結

され、横向きのドカンの端には鉄の梯子がかかり、登ると幅ご五十cm、長さ三mほどの

鉄板の通路が引かれ、その先は滑り台に繋がっていた。鉄板の通路の下には一本だけ独立

したドカンもあり、それらの回りを取り囲むように、クリーム色で二十cm幅のコンクリ

ート塀が建っていた。なかなか複雑で説明しにくいのだが、当時にしては楽しい複雑な遊

び場が設置されていたのだ。ただし、長さ、高さ、色などは定かでない。                                       

 公園の中心になる入口の対角線上五十mほど先には裏口があり、その他にもそれぞれの

通りの抜け道になる路地が何本かあった。そして、裏口の右側には駄菓子屋、左側の奥か

らシーソーが二本、ブランコが四本、ロケット型のジャングルジムが並んでいて、その横

に町内会館が隣接していた。駄菓子屋から右側には住宅と中国系の幼稚園もあり、今も保

育園として影を残している。

 当時、この公園に集まる子供たちのお国柄も性質、性格も様々で、それぞれのパワーが

爆発していた公園だったのだ。そして、中華街になる以前に南京町(なんきんまち)とし

て親しまれてきたなごりからか、この公園の周辺を南京町と呼ぶ人たちが多かったのであ

る。



その日は午前中から快晴で暖かく、絶好の仕返し日和であった。僕らは仙人山のグループ

への報復を決行するべく、小公園の裏口から延びる路地を仙人山へと歩きだした。

 ふと見ると三ばかの手には鉄パイプと角材が握られている。殴り込みの時の鉄パイプは

いつものことだが角材は何処に隠しておいたのか不思議であった。

「おいおい、お前らそんなもんどっから拾ってきたんだよ・・・?」

 僕が笑うとパンチョが僕とケンの手元を不思議そうに覗き込みながら言った。

「そういえばエフケンはなんで手ぶらなのよ? あいつらこれでぶっ叩いてやんに決まっ

てんじゃ。なあ、そうだろ、コング、バッハ」

 パンチョは親分気取りでコングとバッハにじろりと目線を送った。すると。

「そうですね。パンチョ様・・・」と、コングは切れ長の目を三角にし、バッハも二重の

クリクリした目を三角にして引きつった顔で苦笑いをしていた。

 どうやら今日はパンチョが親分らしい、何があったのかは知らないが事前にコングとバ

ッハを子分にしていたようである。

 この三人はどんぐりの背比べといったところで上下関係はないのだが、ひょんなことか

ら一人が親分になって一日逆らってはいけないという決まりがあるらしいのだが、一日ど

ころか何時間ももったためしはないのである。

「パンチョ親分。そんな物騒なもの持っていかなくても、今日は大丈夫だと思うんですけ

ど。もし仙人山の連中がいなかったら邪魔でしょうがないと思うんですけど・・・・」

 前田橋を渡りかけた時、ケンがパンチョ親分に敬意を示してそう声をかけると、単細胞

のパンチョは握った角材をしげしげと見つめた。

「そうかなあ?・・・そうだな。二本持ってると邪魔だな、捨てるか。おいっ、お前たち

も捨てろ!」

 パンチョ親分は子分に向かってそう叫んだ。子分たちは「がってんでぃ」と言われるま

まに角材だけを次々に前田橋の上から堀川にほっぽり投げてしまった。そのとたん橋の下

から声が飛んできた。

「くぉらあ、誰だあ!」

 橋の上から堀川を覗きこむと、三ばかが投げ込んだ角材を握ったおじさんが睨んでいた。

 中華街と元町を結ぶ前田橋の下には堀川が流れている。当時、この堀川から延長する中

村川には船を住居にしている人たちが大勢いて、船から学校へ通っていた子供たちがいた

のだ。だから川の両側には船が隙間なく停泊していたわけで、そこへむやみに物を投げ込

んではいけないのだ。しかも角材を投げ込むなんてもってのほかだ。僕らは反省をしてき

っちりとおじさんに挨拶をしておいた。

「うるせえんだよ、このばぁか! 悔しかったらここまで来てみろ!」

 五人揃ってあっかんべぇをすると逃げるように前田橋を渡り、突き当たりの元町裏通り

から近道の崖を登り、密林を抜けて仙人山の通りに出たのであった。

 そして、代官坂へ下る石段から山手通りまでの一帯を四方八方に散りながら、サンダー

バードたちを見つけるべく行動を開始したのであるが、静まりかえった外人ハウスには人

影はなく、彼らを見つけだすことは困難であった。

 あきらめが早いのも僕らのいいところである。さっそく次ぎの目的地である元町公園へ

移動を開始した。



 浅間坂の長い石段を下って代官坂を右に登り、元町公園へと続く百mほどの道を左に入

って行くと、奥に進むにつれて太陽は樹木に塞がれ、元町プールの正面にたどり着くころ

には空気もひんやりしてくるのだ。

 元町プールは小高い森に囲まれていて、何処から登っても山手通りに出ることができる

のだが、ちょうどこのプールの上あたりがエリスマン邸あたりである。

 そして、プールの正面から石段を降りると子供プールがあったのだが、現在では姿を消

し噴水が設置された落ち着いた空間に変わっている。

 夏になるとこの辺りは僕らのような迷惑な子供の歓声でにぎやかになるのだが、シーズ

ンオフは日曜といえども静まり返っているのだ。その日も同様であった。僕らは出入り口

になるチケット売り場の前に座り込むとさっそく作戦会議を開いた。

「エフよお、もしここに仙人山がいたとしても人数が多かったら突っ込んで行けねぇよな」

「まあな、十人ぐらいいたら様子を見たほうがいいよな。けどよぉ、トッポジージョとブ

―スカは昨日と同じで六人でつるんでいることが多いからよぉ、トッポジージョさえ見つ

け出せばなんとかなるって」

「そしたらよぉ、六人だったら五人で一気につぶすか?」

「そうだなあ、あいつらが六人だったら俺とケンより年下の三人は三ばかに任せて、トッ

ポジージョたちは俺とケンで・・・」

 その時、バッハが顔をさっと上げて。

「あんな三人どうでもいいからさぁ、トッポジージョたちは俺らにやらせてよ、ぶったた

いてやるよこれで・・・」

 バッハはそう言いながら鉄パイプをアスファルトに打ちつけてコングとパンチョの顔を

覗き込んだ。

「そうだよ、あの年上の三人は許せねぇから俺ら三人がやってやるよ」
 
そう言ってコングはパンチョの肩をたたいた。すると。

「おいおい、お前らよぉ、なんで俺より先にそういう発言をすんだよ。十年早いんだよ!」

 と、パンチョが怒鳴った。パンチョはバッハとコングの親分であることを覚いたが、バ

ッハとコングはすっかり忘れていた。

「そうだった、そうだった。親分、申し訳ねぇ、すっかり忘れていて、じゃ、どうぞ・・・」

 コングは引きつった笑みを浮かべたまま手のひらを上に向けて前に差し出した。

「わかりゃいいんだよ、わかりゃ。まっ、しっかり借りを返すのが俺らのやりかただから

な」
 と、パンチョは気をよくしたのか咳払いを一つした。すると。

「親分、言いたいことはそれだけですかぁ?」

 と、バッハは大きな目を細めながらパンチョの顔を覗き込んだ。

「そんなことはねぇよ、だ。か、らぁ、あの三人は俺らがやんだよ」

「おやぶーん、それは僕が言いましたけど・・・」

 コングは追いうちをかけるが如くそう言って引きつった笑みを浮かべた。すると、パン

チョは真っ赤な顔をして言い返した。

「うるせぇなぁ、まったくよぉ、口答えばかりしやがって、この口がまだ言うか!」

 と、コングの唇をつねりあげた。

「んがぁ、おやぷん、いだいでずよ」

 と、コングは笑っているが、目は笑っていない。このへんで止めなければ仕返しを決行

する前に自爆してしまう。いつもそうなのである。結局、親分ごっこは二対一で親分が

ふりになるものなのだ。

「ばぁか、いいからもうやめろ!」

 ケンが立ち上がると三人の頭をはたいた。しかし、気がおさまらないのはパンチョであ

る。コングはそっぽを向いてしかと、バッハはその光景を見ながら手を叩いて笑っている。

パンチョは下唇を突き出したまま下目づかいで二人を睨みつけていた。
 
「とにかくよお、トッポジージョたちをお前らにやらせたら俺たちが来た意味がねぇじゃ、

なぁエフ」

 ケンはそう言いながら握った右拳を左の手のひらに叩き付けた。

 三ばかは僕とケンがいることでいつも以上に強気でいる。昨日のことを思えば三ばかの

気持ちも判らないではないが、この近辺はあいつらの地元と言ってもいい地域だ。油断をして

いれば何処からともなく人数が増えだす危険性は多分にあるし、三対三であれば三ば

かにも勝算はあるが、今までの経験上トッポジージョとブースカはなかなか手ごわい、サ

ンダーバードたちの人数しだいではきれいごとは言っていられなくなり、展開も複雑に変

化していくだろう。僕とケンにしてみればサンダーバードたちが二度と三ばかに手をださ

ないように傷めつけなければケンが言ったように来た意味がなくなってしまう。

「そしたらよお、あいつらが三人しかいなかったらお前たちにやらせるから、けどよお、

それ以上いたらこの中で一番強いケンちゃんが一人でやるからよお・・・・」

 冗談半分の僕の言葉に三ばかはケンを見ながら三度頷いた。

「えっ?・・・エフよお、冗談だろ?」

 ケンは太い眉毛を八の字にしてこまったような顔をした。

「ケンちゃん、冗談ですよ・・・三人以上いたら全員でやる。けどよお、もし、黄金バッ

トやジミー、ジョンがいたら隠れてろよ。絶対に見つかるなよ。いないとしても俺たちが

行くまで手をだすなよ、わかったか?」 

 僕はそう言いながら三ばかを見渡した。

「ああ、ああ、あれな、そうだな、また連係プレーでいくかぁ、クッ、クッ、クッ」

 僕とケンは笑いながら立ち上がった。

 そして、僕とケンは元町プールの入り口から左側の森へ、三ばかは右側の森へと二手

分かれて行動を開始した。

 ケンと森の丘を登り始めているとき、すばらしいことを思いついた。

「ケン・・・探し回るのも面倒だからよお、あとはあいつら三人に任せて休んでようか」

 ケンは嬉しそうな顔を僕に向けると言った。

「エフはすばらしいことを思いつくな。いいこと言うじゃ」

 と、いうことで、ケンと二人山手通り手前のベンチに腰掛けてのんきに休んでいた。

 はじめからそのつもりである。面倒なことは三ばかにやらせておけばいいのだ。

「ケン・・・こっち側には誰もいねぇな」

 僕は探そうともせずに勝手に決めつけたが、以外ときまじめなケンは辺りをきょろきょ

ろしながら探していた。

「エフ・・そこの通りを張っていたほうがいいかもな」

 ケンは山手通りを指でさした。僕は探そうともせずに次ぎの場所を考えていた。

「ケン・・ここには誰もいなそうだからフランス山へ行くか・・・」

「そうだなあ・・・」と、ケンが眉をしかめたその時だった。 

 僕とケンを呼ぶ声が森の中をこだました。

「あれぇ・・・まさか、もう見つけちゃったのかよ。ゆっくり休んでいられねぇじゃ」

「エフ・・・向こう側の広場だ。行ってみるかあ」

 そう言いながらケンが指をさしたのはエリスマン邸の裏あたりだ。

 僕とケンは見つからないように、いったん森の中を下り舗装された道を走り、反対側の

森の丘を駆け上がった。

 広場に出ると二十mほど先で、サンダーバードらしき連中を鉄パイプを振りかざしなが

ら追いかけている三ばかの姿が目に飛び込んできた。まったく人の言うことを聞かない恐

ろしい三人である。

「しょうがねぇなあ、もう始めてるよお・・・」

 ケンはそう言いながらあきれ返った顔をした。僕はあわてて三人を呼び止めた。

「コーング! バッハー! パーンチョ!」

 僕が呼ぶ声を聞いて、三ばかは足を止めてこちらに顔を向けるなりニヤリとした。それ

と同時に仙人山の連中は固まりはじめ、三ばかの前に三人、その後ろに三人、ふてぶてし

い形相で僕らの方を見据えている。どうやら、前列で睨みをきかせているのはトッポジー

ジョたち三人だ。それ以上年上の連中はいないようである。その時,三ばかが飛びかかり

そうな動きを見せた。

「ばーか、お前ら手をだすな!」

 僕は三ばかを制した。

「ケン・・・面倒だから二人でやっちまうか?」

 ケンの顔を見ると「OK、OK!」と、ケンは右こぶしを左の手の平に叩きつけながら

首を右に傾けた。僕とケンには戦闘態勢に入ってから相手にむかって行くときに独特のポ

ーズをとる癖があったようだ。僕とケンにしてみれば意識的にしていることではなかった

のだが、自然にあごを引きながら首が右に傾いていたらしい。

 僕とケンは首を右に傾けるとあごを引いた。そして、トッポジージョたちを睨みつけな

がらゆっくりと近づいて行った。

 彼らまで五mほど近づいた時、左側にいたケンが声をあげた。

「こぉら、お前ぇら、よくも昨日はやってくれたなあ! きっちり返してやっからなあ!」

 彼らはフンと鼻をならすとニヤリと笑った。その人を見下したような顔を見た時、僕の

感情は一気に頂点へと登りつめた。

「このやろう!・・・」

 僕は先制攻撃をしかけるべく、ケンより一歩前へでると、トッポジージョの一m前まで

近づいた。すると、トッポジージョたちの後ろにいた三人が後ずさりをはじめ、目を丸く

して「OH!」と叫びながら、まるで化け物でも見たかの形相で逃げ出した。僕の顔を見

たとたん逃げ出すとはたいへん失礼なやつらだ。しかし、初めからざこには用はない、さ

っさと尻尾をまいて逃げてくれたほうが手間がはぶけるのだ。だが、彼らはただ逃げた訳

ではない、仲間を呼びにいった可能性が高い、さっさと終わらせなければ、危ない、危な

い。

 と、その時、勢いよく近づいた僕の左頬にトッポジージョの右フックが「ガッツーン!」

とカウンターとなって食い込んだ。この瞬間、奥歯がほっぺたの裏側に「グニュッ」と突

き刺さったのが判った。

 先制攻撃をしかけようと近づきすぎた僕がトッポジージョの先制攻撃を受けてしまった。

 我ながらにして間抜けである。しかし、パンチの威力はたいしたことはない、いかにも

やられる前につい手がでてしまいました。御免なさい、といった腰の入っていないパンチ

で脳が揺れるまでのことはない。ところが、その瞬間、すばやい速さでケンがトッポジー

ジョの急症を右手で払っていた。と、思ったらしっかり握っていた。

 ケンは急症を握りながらにやりと不気味な笑みを浮かべ、急症から手を離すと殴りかか

ってこようとしたブースカの顔の前で握っていた拳をパッと開いた。すると、ケンの指先

がブースカの両目にチョン、チョンと当たった。たまらないのはブースカである。「AO

H!」と叫び両目を押さえながら膝をついていた。そして、ケンはもう一人に飛びかかっ

ていった。                                       
 その間、僕はトッポジージョの左のつま先に右足のかかとをおもいっきり蹴りおろして

いた。かかとにグニューっという感触があったとたんトッポジージョの口から「OH!」

と声がもれた。効いてる、効いてる。今がチャンスだ。左手でトッポジージョの首を横か

らガシっと押さえつけ、右拳でわき腹を素早く連打し、両耳を両手でつかむと引っ張り上

げた。すると、トッポジージョは背伸びをしながら、まるでムンクの叫びのような形相に

なり「OH,OH,OH!」と小刻みに声を上げた。

 その時、僕のおでこは、どう見比べても高くて形のいい憎き鼻に標準を合わせていた。

そして、トッポジージョの両耳を握ったまま僕はおでこを憎き鼻に振り下ろした。

「ガッツーン」という音とともにチョーパン(頭突き)はみごとトッポジージョの鼻に炸

裂した。と、思いきやトッポジlジヨの体から力が抜け崩れ落ちる瞬間だったため、頭と

頭がごっつんこ状態であった。

 まだまだ僕のチョーパンは甘い、朝鮮系のダイやリョウのもとで修行を積まなければな

らないようだ。

 しかし、どうやら僕の頭のほうが固かったようで、トッポジージョは急症とおでこを押

さえながら崩れ落ちていった。

 その時、ブースカたちがケンの隙をついて逃げていった。それを三ばかが追いかけよう

としたが「追いかけるな!」とケンが三人を制した。深追いは確かに危険だ。けしてブー

スカたちはただ逃げて行ったわけではない。そんなにあまい連中ではない。仲間を引き連

れて必ず戻ってくる。ケンもよく判っているのだ。

 僕は三ばかを見張りに立たせた。ケンは近づいてくるなり、横たわっているトッポジー

ジョに馬乗りになった。そして、胸ぐらを両手で掴んだ。僕は苦痛で顔をしかめているト

ッポジージョの頭の横にしゃがみこむと、その顔を上から覗きこんだ。

「お前ぇよお・・・昨日はよくもあいつらをやってくれたなあ・・・それと雪の中に石を

入れてぶつけたとかなんとか・・・いつまでもつまらねぇこと言いやがってよお、面倒く

せぇから石ごと口の中に突っ込んでやろうか?」

 僕は手元にころがっていた十cm大の石を掴んで、トッポジージョの唇に押し当てた。

トッポジージョは「ププッ」と唾を出しながら顰めた顔を左右に振った。

「おい、俺たちは何もやっちゃねぇから、勘違いすんなよ。このばぁか」

 そう言いながらケンはトッポジージョの頭をはたいた。すると。

「お前たちじゃなくても・・・お前たちのボスがやった。だから、お前たちにも責任があ

るんだ・・・」

トッポジージョは唾をためながら口ごもに言った。

「ボス・・・? ボスって誰のことだ?」

 僕はトッポジージョの目を覗きこんだ。すると。

「あいつだ。お前たちより一つ上の・・・」

 トッポジージョの青い目玉がジロっと上に動いた。そのとたんトッポジージョの胸ぐら

を掴んでいたケンの手元に力が入った。

「ばぁか、お前ぇ、リョウのこと言ってんのか? リョウは俺たちの親分でもなんでもね

ぇよ。リョウはなぁ、親分とか子分とか好きじゃねぇんだよ。何にもわからねぇでつま、

らねぇこと言ってんじゃねぇよ」

 ケンが目を吊り上げて、掴んだ胸ぐらを持ち上げると地面に叩きつけた。トッポジージ

ョは軽く咳き込んだあとゆっくりと口を開いた。

「あいつは日本人じゃないよな・・・」

 そう言いながらトッポジージョは苦しそうな顔で僕を見上げた。

「おい、リョウが日本人じゃなかったらなんなんだ?」

 僕がそう答えると、ケンが何かを思いついたように声をあげた。

「そうかあ! だからお前たちは無差別に中華街の連中を狩りはじめたのか、けどよお、

なんでお前らは、あんな雪のことでそんなにむきになってんだ?」

「あいつはあの時、デビーの弟を何度も、何度も、わざと攻撃していたんだ」

「デビー? あれはデビーの弟だったのか?・・・」

僕はケンと顔を見合わせた。

「そうだ、デビーの一番下の弟だ。お前たちは知らなかったのか?」

 トッポジージョはそう言って不思議そうな顔をした。僕とケンは目を丸くした。このデ

ビーというのは仙人山のグループを影で操る大ボスである。普段は姿を見せず、それこそ

僕たちを相手にするようなレベルのお方ではないのだ。

「だから、お前らはデビーの命令で中華街を狩りはじめて、リョウをおびき出そうとしたのか?」
 僕が質問すると以外な言葉が力強くかえってきた。

「ちがう・・・あいつがデビーをおびきだそうとしたんだ。あの時だけじゃない。あいつ

はもっと前からデビーをおびきだす為に俺たちにも嫌がらせをしてきたんだ」

「ケン・・・こんな話リョウから聞いたことあるかあ?」

 ケンは黙って首を左右に振った。

「だいたいよお、なんでリョウがデビーをおびきだそうとすんだ?」

 僕はそう言ってトッポジージョのおでこを叩いた。

「わからない、それは俺たちにもわからない・・・」

 トッポジージョは首を左右に振った。

 思い返してみれば・・・あの日、確かにリョウは三ばかよりも年下であろう一人に狙い

を絞って、石を入れた雪だんごで集中攻撃をしていた。しかし、それが何のためなのか、

リョウはなぜデビーをおびき出そうとしているのかは、その時の僕とケンには理解不能で

あった。

「どっちにしてもよお、お前らが朝鮮狩ろうが中国狩ろうが、リョウはびびりゃしねぇか

ら、こそこそしてねぇで直接リョウのところへ行ってかたをつけたらどうだ。それができ

ねぇからって、年下ばかり狙ってんじゃねぇよ。お前らの上に言っておけ、こんなことぐ

らいじゃあのリョウは動かないってよお」

 すると、トッポジージョは首を起こしざまに言い返した。

「ふん・・・それはそのうち俺たちの仲間が行くから、それにお前たちもこれからは気お

つけたほうがいいぞ」

 トッポジージョは口を半分吊り上げてふてぶてしい笑みを浮かべた。彼にも意地がある

のだろう。この場に及んでも強気の態度は変わらなかった。

「ばぁか、来るならいつでも来いよ。相手になってやっから、なあ、エフ・・・」

「その通り、ケンちゃんの言う通り・・・けどよお、いいか二度と関係ねぇあの三人には

手を出すんじゃねぇぞ。こんどやったらこのぐれぇじゃすまさねぇぞ、わかったか?」

 僕はそう言いながら一発頭を殴った。すると「お前ぇ、わかってんのかよお!」と、ケ

ンは握っていた胸ぐらを引っ張りあげて、地面に叩きつけた。ケンの迫力にトッポジョー

は目を丸くして二回頷いた。

「ケン、行こうぜ、いつまでもここにいると危ねぇからよ、とんづら、とんづら」

「それもそうだな、行け、このばぁか!」

 ケンはそう怒鳴って胸ぐらを離し、トッポジージョを睨み付けながら顎で指示をして立

ち上がった。同時に僕も立ち上がると、トッポジlジョはムクっと立ち上がり、山手通り

方面に走りだした。

 僕の口の中は先程から鉄のような味で充満していた。僕は歩きながら溜まっていた唾を

おもいっきり飛ばした。唾は真っ赤な血に変わり若葉の上に飛び散った。

 僕らは辺りを気にしながら元町公園の森の中を駆け下りていった。元町プールのチケッ

トう売り場まで来た時・・・仙人山のグループの騒ぐ声が森の中に響き渡っていた。

 危ねぇ、危ねぇ、とんづら、とんづら・・・・・  


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