ナルシストの人間は自分自身を必要以上によく見せようと躍起になる。
それゆえ、決して「ゴメンナサイ」が言えない。
道院長が一言、「俺が悪かった」と言ってくれれば、他の道院生までもが水に流してくれたんでしょうけれど。
しかし、望むべくもないこと。
その夜、小林君に連絡して、対応を検討しました。
長谷部に一目置かれている小林君ならいざ知らず、他の道院生と懇意にしていると、彼らに嫌がらせがあるだろう。
小林君も、同意見で、結果、小林君とは連絡を取るが道院とは縁を切ることにしました。
私は再び、格闘技の指導者を無くしてしまいました。
それと同時に、梶尾に続き二つ目の実質的な「勝利」に、「俺って強い!?」と言う勘違いが芽生え始めていました。
まだこの時点では、「井の中の蛙」。
大海に棲む大魚達の存在を知らずにいました。
いつしか、私は肩で風を切って歩くようになっていました。
しかも、この頃は、頭髪をパンチパーマにしていました。
単に、直毛で剛毛ゆえに他に整髪の手立てが無く、止むを得なかっただけです。
しかし、東京に出張して、あの人込みの中、誰ともぶつかりません。
モーゼが海を割ったごとく、私の数メートル先から人込みが二つに分かれていました。
「ヤクザかな?、刑事かな?」
すれ違うと、小声の話し声が聞こえてきます。
始めて、他人から見た私の姿、雰囲気に気づかされました。
少なからずショックでした。
けれど私の中で育ってしまった「勘違い」は、このくらいでは私のイメージを変えさせてはくれませんでした。
武道への一途な探究心は今や、突風に煽られ千路に舞い散る桜の花びらのようでした。
挑みはしないものの、挑まれるのを心待ちにしている、町のチンピラと心根は変わりませんでした。
だんだん社内でも、浮いた存在になってきました。
かつて、梶尾が辿った道を私も歩もうとしていました。
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