三人目は誰も出てきませんでした。
みんな下を向き、時折、仲間の様子を伺っていました。
「次!!」
長谷部はイライラした様子で怒鳴りました。
「次、○○。立て!コラー」
怒髪(どはつ)天を突くとでも申しましょうか、物凄い形相(ぎょうそう)で名前を呼んだ男を睨みつけています。
男は立ち上がりました。
しかし明らかに腰が引けています。
私は当らぬ様、上段に蹴りを放ちました。
大袈裟(おおげさ)に仰(の)け反り、蹴りをかわすと、この男は距離を取ってグルグル私の周りを廻り始めました。
ステップを踏みながら彼の進路を断っていくと、いきなりバックハンドブローを飛ばしてきました。
少し屈(かが)んでこれを避けると、屈んだ状態のまま一回転し、後ろ蹴りで彼の膝頭(ひざがしら)を蹴飛ばしました。
相手は、もんどりうって腹ばいの状態で床に落ち、膝を抱えて声にならない声を上げました。
残った仲間は、彼を抱きかかえたまま屋外へと姿を消してしまいました。
「役立たずめ」
長谷部は小さな声で罵(ののし)ると、肩をワナワナ震わせ、暫く立ちすくんでいました。
私には、彼の心情が手に取るようにわかりました。
次は長谷部が出て行って私を叩(たた)き潰(つぶ)したい。
しかし、それでは道院生に「今回の事は私怨でした」と云っていることになる。
また、今までを見て、勝てると言う保証は無い。
これで負けたら、実質、道院はやっていけなくなるだろう。
強さを誇示してきた道院長が白帯の新参者に負けた。
周りの目以上に、自分のプライドが許さない。
私は、個人的には道院長は嫌いでしたが、この道院は好きです。
小林君を初めとする幹部はとても善い人たちで、他の道院生達も彼らを本当に敬愛していました。
道院を無くすような結果になってはいけない。
「ありがとうございました」
私は大声で叫ぶと、さっさとその場を離れ、着替えを小脇に抱えると、車に乗り込み帰宅してしまいました。
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