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作品名:竜の鱗 第2章 作者:葵 輔

第4回   開花準備
この道院で知り合った人たちは個性豊かで、人間観察の意味でもいい体験ができたと思います。

その中の一人、まだ二十代前半の若者の木田君とはよく格闘技の話で盛り上がりました。

十代に相当ヤンチャをしてきたと見え、言葉遣いは丁寧なもののヤンキーのにおいが抜け切りません。

隣の市から時間を掛けてこの道院に通っていますが、以前は空手を遣っていたそうです。

組手の時間は、どちらかというと喧嘩(けんか)に近い。

特に熱くなって来ると、なりふり構わず突っ込んで来るのであしらいに困ってしまいます。

でも気の善い青年なので、醸(かも)し出す雰囲気の割には皆に溶け込んでいました。

彼も道院長の長谷部が嫌いでした。

ある日、練習に来て武道場に一歩足を踏み入れたとたん、異様な雰囲気に歩みを止めてしまいました。

中央で木田君と長谷部が対峙しており、特に木田君からは今にも飛び掛りそうな気が迸(ほとばし)っていました。

まさに一触即発(いっしょくそくはつ)の状態。

すでに道院に来ていた道院生達は、固唾(かたず)を飲んで見守っています。

原因は、長谷部が自分をよく思っていない木田君に、執拗に痛みの限度を超えた柔法の固め業(かためわざ)を繰り返したことらしい。

十代の失敗に懲りて、怒りを表さないよう、自分を戒めていた木田君も堪忍袋(かんにんぶくろ)の緒(お)が切れたようです。

長谷部は木田君を挑発するかのように薄笑いを浮かべていました。

これは拙(まず)いと思い、私は木田君を押しとどめ、長谷部に穏かに云いました。

「理由は伺いました。道院長のやり過ぎだと思います。立場上、皆の手前もありますし、木田君に謝られたほうがいいと思います」

長谷部は私に怒りを込めた視線を送り、チラッと他の道院生達に視線を送ると、

「判った。木田、抵抗しないから好きな柔法を掛けろ」

長谷部は自分の右手を差し出しました。

木田君は「片胸(かたむな)落とし」という手首、肘に激痛が奔(はし)る技を掛けつつ、お辞儀をするように下を向きました。

長谷部は、腕の痛みに耐えきれず、顔面から床にたたきつけられました。

暫く痛みに耐えていましたが間もなく起き上がり、私たち二人を、目じりが逆立った般若のような形相で睨みつけてきました。

この一件以来、木田君は道院に姿を現さなくなりました。

私は、あえて平静を装い、休むことなく練習に出かけました。

1ヶ月ほど経った頃、少林寺拳法の道衣を着てはいるが、見知らぬ数人の人たちがやって来ました。

彼らは皆、黒帯を締め、長谷部を取り囲み一斉に挨拶をしました。

その中のいかにも親分っぽい人物が、一言二言、長谷部と口を利くと私の方に視線を送ってきました。

アリャ・・いや〜な雰囲気・・・


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