「気が付いたようだね」
目覚めると同時に、全身の痛みに思わず体を丸めた私に、誰かが声をかけてきました。
痛みをこらえ声のほうに顔を向けると、私の顔を覗き込むように、真近に男の顔がありました。
「広田(ひろた)室長?」
「大変な目にあったなあ」
見渡すと、ここは部屋割りであてがわれた和室の片隅でした。
「事が大きくならないよう、一応宿の方には君が酔っ払って怪我をしたことにして手当てをしてもらった。」
ニコッと、「そこんとこヨロシク」といわんばかりの笑顔でした。
広田室長は、情報管理室、つまり当時の田舎町では珍しい本社や各支店のコンピュータ環境を立ち上げ、それぞれをオンラインでつなぎ、情報を一元管理するシステムを独自に完成させた立役者で、若くして室長にまで登りつめたエリート社員です。
しかし風貌は、ころころした体型で、いつもニコニコして童顔、マシュマロカット、トッチャン坊やを彷彿とさせるものでした。
私より5歳ほど年上なのですが、思わず「広田君」と声をかけてしまいそうになります。
「広田さんがどうして・・?」
不思議そうに室長の顔を見つめていると、しょうがないか、という感じで語り始めました。
「ここに来る途中、サービスエリアで君たちは格闘技の真似事をしていただろ。そのとき梶尾君が凄い目をして君らを睨んでいたのに気づいたんだよ。僕も興味深く君らを見てたもんだからさ」
「エッ、そうだったんですか」
「葵君の回し蹴りはすばらしいねー。何かやってるの?」
「いいえ、学生時代、沢村忠に憧れて毎日、上段回し蹴りを稽古をしていただけです」
「そうか。でもなぜか梶尾君には相当刺激的だったらしくて、その後、添乗員にイチャモンを吹っかけたり相当荒れていたよ。たまたま僕は彼と同じバスだったもんだから」
「・・・・」
「それで気になっていたので宴会の時にさりげなく君たちの動向を見てたんだよ。そしたら君がトイレに行った様だったんだが、梶尾君も暫(しばら)くしたら居なくなっていたんで、モシヤ・・・と思ってトイレに行ってみたんだよ」
「・・・・」
「そしたら君が倒れていたって訳さ」
「じゃあ広田さんがここまで運んでくれたんですか?スイマセン、ご迷惑かけちゃって。・・・ところで梶尾は?・・・」
「さあ、僕が行った時には居なかったけど」
「そうですか・・」
「とりあえずゆっくり休みナよ」
広田さんはそう言うと部屋から出て行きました。
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