「相変わらずいい女だね〜。しかしどこが好いんだか、こんなへたれ。・・・おいちょっと面(つら)貸せ」
梶尾は片方の口の端を吊り上げニッと笑った後、ぞっとする目つきで私を見ました。
私が言い返そうとした瞬間、彼女が私の前に立ちはだかるように一歩、歩を進め、
「葵さんはそんな人ではありません。私たちに構わないで下さい。帰って!!」
容姿からは想像も付かない気丈さを内に秘めた彼女の凛とした声に、私は少なからず驚きました。
梶尾も私と同じ思いだったらしく暫く彼女を見つめて
「おーお、女は男に惚れるとおっかないや。」
からかう様に言葉を掛け、私に視線を向け直すと
「広田は何処(どこ)だ」
凄む様に言いました。
「知らない。どこかに引っ越され、今は連絡も取れなくなってしまった。」
「ち、逃げやがったか」
「逃げる?誰が?広田さんの腕前はお前が一番知っているはずだろう」
梶尾の目が凶暴な光を湛え私を射すくめるように見つめました。
しまった、余計なことを言ってしまった。
「あれは不意を突かれただけだ。お前にこれからそのことをもう一度分からせてやるよ。この建物の裏に空き地がある。ついて来い。」
梶尾が歩き出しました。
もしここを逃げ出したとしても梶尾は必ずまた目の前に現れるだろう。ここで決着をつけるしかない。
私は意を決し、歩を進めようとしました。
「行かないで!」
彼女は両腕で私の右手を抱え込むようにして引き止めました。
「大丈夫。必ず帰ってくるよ。約束する。だからここで待っていて」
彼女は私の目をじっと見つめ、暫くすると
「分かった。でも私も一緒に行く」
有無を言わさぬ声に私は頷くしかありませんでした。
二人は梶尾の後を付いていきました。
そこは以前、ビルか人家があったところらしく、今は更地になっており密集した建物の間にぽっかりと大きな穴が開いている様でした。
敷地は建物が在った時から敷地境界代わりに作られたと思われる、胸丈位のネットフェンスがぐるりと張られていました。
細い路地だけが唯一の出入り口で、そのため誰にも買い取れれることなく更地のまま相当な時間が経過した様子です。
梶尾は私たちが到着するのを確認すると、すっと中央に歩を進めました。
私はまるで引き込まれるように、何の気構えもなく宙に浮いたような足取りで梶尾の前に立ってしまいました。
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