広田さんの大阪への転居が数ヵ月後と決まり、訓練は激しさが増すばかりです。
その頃は一日おきの訓練となり寝不足と痛みで、体はとても辛い状況でしたが、精神的には楽しくて楽しくてしょうがない・・、まさに生を実感する日々でした。
ワクワクしていると善いことも起きるようで、今となっては何がきっかけだったかすっかり忘れましたが、憧れのマドンナと食事に行く事になりました。
アフター5にレストランに出かけ、浮かれっぱなしで、話した内容はよく覚えていませんがあっと言う間に3時間位過ぎてしまったことは記憶にあります。
家に送るのもまだ少し早かったし、別れが惜しくて、途中の海に面した公園の駐車場に車を停めました。
彼女は、最近、管理部長から電話があったと語り始めました。
管理部長は、辣腕(らつわん)ぶりが有名な悪役顔の男前で、その強引さは閉口ものでした。
そのせいかどうか、離婚をして今は独身でいろいろ浮名を流していました。
そのときも、休日に彼女の自宅に電話があり、食事にいくから出てこいと命令口調で言い、断ってもまったく聞く耳を持たず、待ってるからと電話を切ったそうです。
私はがっくりしました。
あの管理部長が彼女を狙っている。私になんてとても太刀打ちできる相手じゃない。うぁー、どうしよう。
黙りこくった私を見て、彼女は
「結局私はレストランには行かなかったの。」
暫く間があり、私をじっと見つめ
「葵さん、もっと早く、誘ってくれればよかったのに。そしたら沢山、色んな所に遊びに行ったり食事に出かけたりできたのに・・・」
「えっ!?」
「誘ってくれるチャンスは何回もあったから・・。葵さん、私に興味がないと思ってたのヨ」
「・・・・・」
彼女が高校の後輩にあたり、それが判ってからは、部署が違うものの、よく話をするようにはなっていました。
そして今年から私は晴れてご栄転で彼女の居る本社に行くことになり、食堂で二人だけでいろいろな話をする機会が多かったんです。
でも、これって・・、ドラマではよく見る大どんでん返しストーリーだ。
まさか本当に・・・・!!
でも、俺だぜ?
からかわれてる?
私は頭の中が真っ白になりました。
彼女は私の手を取り、私の手の甲にそっと唇を触れました。
社内でも「落とせない美女NO1」に挙げられる女性で、事実、男性に対し何かトラウマでもあるのかと思うくらい身持ちが堅かったんです。
そして、この女性(ひと)の私生活を知る人間は少なく、いろいろな噂が飛び交っていました。
その美貌ゆえにともすると年齢を忘れてしまうが、確か私より2歳ほど年下のはず。
適齢期といわれる時期は過ぎているのにまだ一人身で、その落ち着き振りからバツイチ、出戻りと噂する男どもが多かった。
そのせいもあるが、デートに応じてくれたこと自体不思議だったし、彼女の取った行動は、彼女にとって精一杯の愛情表現だったはずです。
私は物凄い愛おしさを感じ「結婚」の二文字を意識しました。
しかしまだ彼女のオーラに堅さ、拒絶がわずかにあるのを感じ取り、ゆっくりやろう、と自分に言い聞かせました。
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