最初に指示されたのは、体の柔軟運動と馬に乗っている姿の馬歩腿(まほたい)の訓練から始まりました。
馬歩腿は例の空気椅子スタイルです。
しかしこれらは、立禅や腰を落としての套路を何年もやってきたお陰で、何とかこなしていました。
とは言っても時間が長いのではじめの頃はそりゃもう大変でした。
次に逆さ吊りが加わりました。
革紐を何本も編みこんだ丈夫な紐を橋の欄干に引っ掛け、下に垂らしたわっぱ部分に足を差し入れ逆さになります。
欄干の底部にビー玉を何個も入れた洗面器を置き、腹筋と背筋を使って体を起こしビー玉を掴んで河川敷に置いた洗面器に移し替える。全部移すと、今度は下のものを欄干の洗面器に移す、を繰りかえし延々とやらされます。
最初の頃は、上半身はまったく鍛えてなかったため、頭を下にぶら下げたままブルンブルン揺れているだけです。
手が橋に届くまで何ヶ月もかかりました。
そのほか、一本指腕立て伏せや片手腕立て伏せ、二本指倒立、いろいろな勁(けい)の出し方なども追加されました。
勁は一言で言うと『力』ですが、空手などの「筋力」の力だけではなく、重力や地上の反発力などの「自然の力」も加え、それを拳や脚に伝え放出するものです。
発勁は、ドシンと足を踏み降ろす震脚(しんきゃく)、突然しゃがむ事で生じる落下エネルギーを利用する沈墜勁(ちんついけい)(急に手足を伸ばす十字勁と併用する)、など様々あり、どれも勁の発動を意識できるまで随分掛りました。
ある日、広田さんが今やっている基礎訓練を少し短縮し、化勁を始めるといいました。
化勁とは、相手の勁力や筋力を逸らして利用する技術で、相手のエネルギーを借りて利用し、その利用に自己の勁力をプラスする事により、相手自身からコントロールを奪うものです。
つまり、防御の要となる技術で、空手のように攻撃を弾き飛ばすのではなく、攻撃の方向を逸らしたり逸らしながら掴む、または投げる、相手の横や後ろに回りこむ、の後、自身の攻撃に繋げるものです。
かなりの高等技術で相当の訓練時間を要しますが、私本人ではまだ時期尚早だと思っていました。
発勁も攻撃の肝になる部分ですが、一人稽古ができるのでまだそれなりに納得はしていましたが、化勁はどうしても二人一組での対練(たいれん)が必要になります。
それで、まだそのレベルではないと言いましたが、イヤいいんだと広田さんは答えました。
「なんか、焦ってる?」わたしは心の中でつぶやきました。
ちょっと心に引っかかるものがありました。
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