私は中島と別れた後、指定された場所を下見に行きました。
橋はコンクリート性で、欄干が鉄パイプでできており、下を覗き込むとさほど高くはありませんでした。
橋の終点あたりに左に入る道があり、車が十分止められるスペースがありました。
下に降りると、川そのものはさほど広くなく、橋の前後、数メートルにわたり、片側の川岸が幅3メートルほど平らに整地されコンクリートが打ってありました。
また川岸の敷地から橋底まで2メートル少々で飛び上がれば十分手の届く高さです。
十分な広さがあり、路上から見えず、しかも人通りもほとんどなく、拳法の訓練には願ってもない環境で、って言うか一人ではとても深夜にやって来たくないようなところです。
よくぞこんな場所を見つけたものだと感心することしきり・・・
しばらくして一人で練習を始め、少しやっては立ち止まり、込み上げてくる笑いを堪えきれず、ニヤニヤしてまた練習を再開し・・・を繰り返していました。
水曜日になり、仕事中も今日の拳法の練習ははどんなことになるんだろうと、人と話していても書類を読んでいても全く頭に入ってこず、1分の時間の長いことったら・・
そうこうしているうちに待望の終業時間となり、近くの中華のチェーン店に行き腹ごしらえをしました。
安くて旨い店で、体力を付けるのに餃子を頼もう、いやいや、広田さんに失礼になる、ああどうしようと浮かれっぱなしでした。
その後、本屋に立ち寄ったりして12時近くまで時間をつぶし、練習場所の橋の下に行きました。
広田さんもほぼ同時に到着して、練習着に着替え挨拶をして初めての練習を開始することになりました。
「葵君は、数ある中国拳法の中で特に何に力を入れたいのかな?やっぱり太極拳?」
私はこの質問を想定していて、何日も悩んだ結果、「半歩崩拳(ぽんけん)、あまねく天下を打つ」と言われた郭 雲深(かく うんしん)の形意拳を選びました。
空手で言う中段突きを半歩進んで打つと敵をすべて倒してしまったと言われ、シンプルかつ強力無比な崩拳に惚れ込んでいました。
「ほー、意外、形意拳か〜」
広田さんは「は、は、は」と珍しく声を上げて笑いました。
「本当に君はおもしろいな。でも最初は基礎からね。中国拳法に必要な体力作りからスタートするよ」
皆さん方は、ジャッキー・チェンの初期の頃の映画をご覧になっただろうか?
ドランクモンキー酔拳や、ヤングマスター師弟出馬などで、空気椅子よろしく膝を90度に折り曲げ両手を突きだし、膝や手に水の入った皿を置いて落とさないよう耐える、お尻や腕の下には火のついた長い線香があり、少しでも尻や腕を下げようものなら・・
或いは、両足を木の枝などにくくりつけ、逆さまになり、腹筋の力で体を持ち上げ、足元に置いた水桶の水を地上の桶にこぼさず移してゆく、
こんな過酷な修行を、本当に、現代日本で体験することになるとは・・
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