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作品名:竜の鱗 作者:葵 輔

第10回   入門許可、もらったどー!
「老子」は、孔子(こうし)や孟子(もうし)などと共に中国を代表する思想家の一人で、その教えを「道教(どうきょう)」といいます。

孔子の「儒教(じゅきょう)」は、善悪を前提としたストレートな道徳論という印象が強く、老子の「道教」は『折れ曲がった山中の木は柱になりえないがそれ故切り倒されることがない』といった逆説的な表現が多い成果、世の中を斜(しゃ)に構えて見ているようなところが感じられ、その分難解でなかなかピンとはこなかったんです。

しかし「老子」の解釈次第で入門の許可・不許可が決まると思うと、必死で何度も何度も読み返しました。

私は小さい頃から変わり者で、「人とはなんぞや?」といったおよそ年に似つかわしくない疑問を持ち、学生時代から仏教やキリスト教の本を読み漁っていました。

そう云う下地もあって、老子を読み進めて行くうちに仏教の開祖の釈尊、ゴータマ・シッタルダ王子やキリスト教のキリストと同じように、老子も宇宙の真理に到達していたのではないだろうかと思うようになりました。

しかし、広田さんが求める答えが何なのかは見当も付かず、やがて約束の日が近づいてきました。

半年前に駐車場で宿題を出されたときには、この半年という時間は恐ろしく長く感じられ狂おしいほどでしたが、必死で勉強していると時間が足りないと感じました。

OKの出る回答ができるのか、という恐怖に近い感情と、少しでも早く弟子入りして修行を始めたいという焦燥感(しょうそうかん)に苛(さいな)まれながら、広田さんの部屋に社内電話を入れました。

「例の場所で例の時間に」とだけ答え、広田さんはあっけなく受話器を置きました。

私は、中島にこのことを伝えると、「一緒に行く」との返事で再び半年前と同じ光景を迎えることとなりました。

試験問題を回答し、合否を下される大学受験の高校生の気分です。

今回はさすがにはしゃぐ気になれず、ずっと沈黙のまま広田さんの到着を待ちました。

中島も黙りこくっています。

暫くすると、広田さんが来て、以前と同じように珈琲の缶を投げてよこしました。

冷たい缶が季節の移り変わりを感じさせました。

「で?・・・」

広田さんが切り出したとたん私は、口早(くちばや)に6ヶ月間の勉強の成果をまくし立てました。

ゆっくり話すと、広田さんの表情が見えるのが怖かったんです。

「・・・・・」

じっと私の話に聞き入っていた広田さんは、

「よく勉強したね。この前の宿題に正解なんか無いんだよ。あの難しい老子を勉強するとなると大抵の者は諦めるんだよ。だから君も諦めると思ってあんな話をしたんだけど・・・。ワカッタ、君の本気を見せてもらった。入門を許可するよ!」

私はその場に、ヘナヘナと崩れ落ちそうになるのを必死に堪え、半べそをかきながら、「ありがとうございます、ありがとうございます」と繰り返していました。

「中島君も一緒にやるのかな?」

広田さんは中島のほうに視線を移し、ニコッとしました。

「いえ、僕にはとても無理です。興味はあるけど」

中島は消え入りそうな声で答えました。

「葵君、では毎週水曜日の深夜12時にこの近くにある水梨川の橋の下で訓練をスタートするから」

「はい、でも夜12時ですか・・?」

「そう、中国拳法は自分の練習を人に見られ、手の内を知られると戦いの際、命取りになるから誰にも見られないよう深夜に練習するんだよ。私もそういうスタイルで君に教えるつもりだ。嫌ならいいけどね」

「滅相もありません。それで結構です。必ず伺います」

私は気を付けをして広田さんに返答をしました。


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