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作品名:竜の鱗 作者:葵 輔

第1回   カウントダウン
早、中年も過ぎ壮年と呼ばれる年齢になりました。
この年になって空手道場に通い始めたのです。

いやね、私は葵 輔(あおい たすく)と申します。

何で今頃、空手か?・・・

実は私、学生時代、それも小学、中学、高校とずっといじめられっ子だったんです。
いやいや、大学に入ってアルバイトに行く途中、たった一人の高校生に脅されたこともありましたっけ。

「コイツ、ビビッてやんの!」

フンと鼻で笑って私より小柄な高校生は立ち去りました。

悔しさでずっと唇をかみ締めていたのを今でも思い出します。

それで、とにかく「強さ」に憧れました。

キックボクシングの沢村忠(さわむら ただし)。
あのハイキックに憧れ、勉強そっちのけで天井から吊るしたボールを蹴っていました。

また、季刊誌から月刊誌になるほどの「中国拳法」ブームを巻き起こした雑誌「武術(うーしゅう)」を買いあさり、東京や大阪で開催される中国拳法の大家を招いての表演会などは給料の大半をつぎ込んで通いました。

陳小旺老子の発勁(はっけい)の凄さに失神しそうでした。
腹がブルッと震えるとバシュと突きが突き刺さるような勢いで打ち出されるんですから。

もう完全な格闘技オタクです。

太極拳の本を買ってきて、陳老子をイメージしながら独学を始めました。

朝の4時から裏の田んぼに出て空手の型にあたる套路(とうろ)や、立ったまま一時間近くじっとしている立禅(りつぜん)などをやっていました。

太極拳や立禅など知る由がない近所のおばあちゃんが、家の物陰から片目だけ出してこちらをじっと伺っていたのが思い出されます。

相当にアブないヤツ、だったんでしょうね。

5年近くこんな練習が続きましたが、自分が強いのか弱いのかさっぱりわかりません。

套路は覚えましたが、用法などさっぱりわかりません。

今のようにパソコンの動画を調べるなんてできなかったんですから。

当然、組手なんかやったこともありません。

やがて、自分の実力を思い知らされることになります・・・・・。

大変な苦痛を伴って。



当時、私は田舎町にしては従業員が100人近くいる大きな企業に勤めており、また景気もよかったので国内とはいえ全員を引き連れ社員旅行も行われました。

目的地に着くまでの休憩場所で、私と同じような「格闘技オタク」達と手振り身振りを交え、はしゃいでいました。

このときから私の不幸のカウントダウンが始まっていたのです。


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