米国における低所得者向けローン、いわゆるサブプライムローンを代表とする似非的な信用への投資熱、バブルがはじけて、全世界へと悪影響を及ぼしている。さらなることに、追い打ちをかけるかのごとく、新型インフルエンザの大流行(パンデミック)となり、とりわけ航空業界に深刻なダメージを与えた。 未来への生き残りを賭けた航空業界の再編成、エコを模倣したようなコストの徹底削減は現在も続行されており、さらなる経営打開策を持つ有能な人材や企画を、国境を問わず募集している。
航空会社における座席指定には、ビジネス、エコノミーなどの、乗客の支払った料金に応じてクラス分けが成されている。複雑な流通網を経て、空席を無くすための値引き、いわゆるディスカウントが実施されており、当然、同じ機内に乗り込む乗客たちの間にも50パーセントを超える価格格差が生じている。同じ目的地へと同じ時間を掛けてフライトする際、30パーセントから50パーセントも安い料金で乗った人間が隣に座っていれば、誰でも内心、穏やかではない。そこで、航空会社の現状として、エコノミークラス、規定料金を支払った乗客たちが持つ潜在的な不平を和らげるために、サービスの格差をつけている。例えば、規定料金を支払った乗客への機内案内、チェックインを優先させ、ビジネスクラスのすぐ後ろ、機体中央あたりの指定された座席へと案内、機内の無料雑誌を最初に手に入れるべく配慮など、実にさまざまな有料の心くばりをしている。 航空会社側の視点としては、高くても規定料金を支払ってくれる乗客、いわゆる上客への待遇改善が主である。僕の視点は角度を変えて、格安料金で乗り合わせた乗客へと、もっと強硬な手段を講じるべきであり、以下は、コスト削減、経営打開の一助となるべく有用な案を実行したケースについて述べている。最高経営者会議を開催、僕からの一案の是非をめぐり、討議をしていただきたい。
エコノミークラス、規定料金を支払った乗客たちが機体中央の座席についたあと、格安料金で乗り合わせた乗客たちの苦難の旅がはじまる。 まず、不用意に逃げ出せぬよう足かせをつけさせられた乗客たちは、恐々としながらも規定料金を支払わなかった報いを胸に秘め、誰もが口を閉ざし、沈黙の世界へと身を投じることとなる。やがて、刑務所の管理経験者であり上半身裸の、長いむちを持った大男が怒号をあげながら登場、格安で乗り合わせた乗客たちを機体最後部へと追い込む。最後部の座席は、すべて取り外されており、乗客たちは床に押し倒されたあと、蛇のように息をひそめた頑丈な鎖につながれ、固定される。乗客たちの間にできた、わずかな通路を行き来しながら大男、スチュアードが怒鳴るように勧告をはじめる。
「 よく聞け、これから目的地に到着するまで、誰ひとり口を利いてはならん。もちろん、この機内で起きたすべてのことも口外してはならん。 注意事項、緊急事態のときには、のこぎりが天井から自動的に飛び出してくるから、各人で鎖と足かせを切断し、機体前方にある非常口から脱出しろ。 ただし、非常口から逃げ出すのは、追加料金を払ってからだ。わかったな! ようし、離陸だ。なにか聞きたいことはあるか 」
そこで、空気の読めない東洋人がおずおずと質問をした。「 今日の機内食はなんでしょうか? 」
乗客たちから選抜されたひとり、模範囚が木のおけを携えて、65のA席あたり ──もちろん座席などはない── の乗客から順番に、白粥(しらかゆ)を古びたカップへと注いでいる。 この後の東洋人の運命、配慮の欠けた大男の予想されるべき行動は、あなたの良識の範囲内にて、とどめていただきたい。
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