「・・・えっ?・・・」 無意識に本音が出る。 それより、深夜にわざわざ人の腕を食べにくる女子高生なんているのだろうか? 今時になって食人嗜好【カニバリズム】なんて流行遅れもいいところだってのに。 でも、どこかの民族ではそんな風習があるのを聞いたことがあった気がするけどなんて考えたりする。 「美味いのか?腕って・・・?」 ふと素朴な疑問。
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「・・・嘘よ、私をなんでも食べる怪物乙女みたいに見ないでくれる?対応に困るわ」 こっちが非常識な質問をしたみたいな返答。 「対応に困るのはこっちの方だっ!」 「では聞くけど砂漠で餓死寸前の私がいるわ、お腹が空いているのを見てヒシナ君あなたは私にもちろん腕を食べさせてくれるのでしょう?」 「いや、まてそもそもなんで腕なんだよ。他に僕が何か持っているかもしれないじゃないか」 「無理よ。だって貴方ホームレス高校生なのでしょう。なにも持ってないのなら0からマイナスにするしかないじゃない」
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「知ってたかそれって追剥っていうんだぞ」 「正確には剥ぎ取りかしら?」 「だとしてもだ!僕は砂漠になんか行かないしホームレスでもない。もし行ったとして助けを乞っているアヤキがいても死んでも食わせるか!」 あら、残念と口に指を咥えてアヤキは腰を床に下ろした。 最近になって知ったが、いつだってこっちが不利になると地で楽しむのがアヤキ ミヒナの傾向らしい。
◆ アヤキは絢霧と書く、ミヒナは巳雛。 絢霧巳雛は知り合って5日しか経っていないのにも関わらず友人関係を築くことのできた貴重な存在だ。 アヤキは高校女子を裏切らない容姿と顔立ちのくせに退屈なまでに学生という形を維持し続け、退屈にすぎない学生生活を送り続けた。 同じクラスとなった今年の4月、ふと耳にした彼女の名前が印象に残っていたのを最後につい5日前まで話すことがなかったクラスメイト。 よくある話で同じクラスになっても1度も話さずに卒業を迎える、そんな陰鬱なクラスメイトがいるのは今の次世代には珍しくないと思う。 とりわけアヤキはその核人物で周囲と行動することをひどく嫌っていた。 そんなアヤキに進んで話かけた愉快なクラスメイトは皆沈艦、以降孤立を選んだアヤキはその立ち位置を維持し続けクラスも放置し続けた。 そう、僕も関わりのない。 関わることはないであろうアヤキとボクには確かに距離が存在していたんだ。 そう、絶対に縮まらない距離。 放置し続けるクラスメイトよりも遠い距離だと理解していたつもりだった。
なんたってあちら側から関わってこなければ一生あの距離は縮まることはなかったのだから。 ◆
夏の最中にしては涼しく冷めた風が彼女の髪をなびかせる。 終電すら役目を終えた街は不気味なまでに静まりかえっていた。 自転車のチェーンの擦れる音ですら地面に吸い込まれているような錯覚。 「そこの十字路を左よ」 後部からはアヤキの吐息が直に届くほどの近さで指示された。 アヤキの吐息は外気よりもずっと冷たい。 言われた通りに交差点で左折すると年中無休のコンビニに到着。 しかし店から溢れ出る光は場違いに明るい。 眼が痛くなるような光量はネオンそのものだ。 __ストン、と店の入り口前で後部座席から着地する音が聞こえた。 「貴重な体験ありがとうヒシナ君。あんな下手な2人乗りは初めての体験だったわ。」 「余計な御世話だっ」 自転車にスタンドを掛けて店へ向かおうとする。 「待って。ヒシナ君も店に来たら誰がそのオンボロを見張るのよ」 「オンボロ言うんじゃねーよ、それにこの自転車には鍵が付いてるしこの時間帯だから大丈夫だろ」 駐車場に停まっているのは僕の自転車だけだ。 「はぁ、ヒシナ君のような飾りだけの頭なんて100円で量産されている消しゴムと大差ないわ」 なんて酷いことをサラっと言う。 そして一歩振り返って忠告してくれた。 「知らないのなら教えるけどヒシナ君。実は昔ストーカーにあったことがあるのよ」 「・・・」 場と空気を全く読まない告白になんと対応すればいいのだろう? 「・・・それは、災難だったな」 「最低。そんな気遣いされても嬉しくもなんともないわ」 「__っ僕の思いやりを返せ!」 「そのストーカーはこの世の醜態を固めて腐敗した生ゴミで割ったような変人でね私の自転車のサドルを持っていってしまったの。家に帰れなくてとても苦労したわ」 酷いいいようだな。 「鍵を壊されたわけじゃないんだろ。立ちこぎ帰ればよかったじゃないか?」 「最低。だからあなたは私を後ろに乗せたくらいで発情するのよ」 ・・・してねーよ。 「別にその駄車がどうなろうと私の知ったことではないけれどもねヒシナ君」 「っさっきからなんで自転車っていえないんだお前は!!」 「あら御免なさい。早くその鉄クズを置きなさいよ」 「___そうですよこれはオンボロの駄車ですっ!!!」 酷評を認める告白を強要された。 今頃気づいたの?なんて頷くアヤキ。 「知ってた?サドルが無い自転車に座ると凄く痛いらしいの。男だったら尚更ね」 ジッと僕の下半身を睨まれたような気がする。 「潰れるかもしれないわね」 「しっかりと見張っていたいと思います!」 脅迫じみた説得は僕には痛すぎたみたいだった。
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