初夏、これは私の空蝉がこんなにも愛おしく感じた夏の風物詩
7月も終わりにさしかかった深夜零時、ご近所様から苦情が絶えなく押し掛けてくるのは間違いないであろう呼び出し音で眼が覚めた。 事前に連絡もないまま突然訪問されるのは未だになれない、いや決して馴れることはない非日常だろう。 ホントに五月蠅い呼び鈴で耳の奥底まで響いてかち割ってくれるようなこれを非常識さんは30回越えで呼び鈴をピタリと止めた。 自然と反射的に床から身体を起き上がらせる。 然して今夜は夏にしては涼しく、いや冷房も必要のないほどの気温のせいか関節が軋むように痛んだ。 僕の住んでいるアパートの一室は玄関から居間まで直線の廊下で繋がっている。 フローリングの床は少し冷たくて寝ぼけた頭にはちょうどいい。 部屋の大きさからして釣り合わない5メートルもある廊下は灯りとなる電球が1つだけ、だから実際に歩いていると距離感が曖昧になってしまうのはそのためだ。 そんな入口を隔つような中とも外もいえない曖昧な空間に既に彼女はいた。 「ヒシナ君、今みたいな呼びだし方はご近所様に迷惑だと思うからあまりしたくないのだけれども」 非常識なやつは非常識なことをさっらと言いのけてくれた。 「なぁ、迷惑だって認識しているんだったら自重してくれ。これじゃ明日から西野に追い出されっちまう」 「西野さん?あぁ、あなたもしかしてここから追い出されて寝る場所がなくなるのが怖い?大丈夫よ夏に公園で寝ていても犬の死体と見間違える程度のことだから」 犬の死体に見える高校生になんてなりたくないっ。 「そうね、ヒシナ君が路頭に迷ったらご飯を持って行ってあげるわ、だから安心して」 「でも、私の家そもそも犬なんて飼ってないからドッグフードがなかったわ。コンビニで売っているのかしら?」 「まてアヤキ、そもそも僕が路頭に迷うこと前提に話を進めるなよ」 「御免なさい、ホームレス高校生にはまだ早かったかしら?」 ・・・ちなみにアヤキと話して惨めになるのは初めてじゃなく、初めは鬱になるくらいだったのが気落ちするくらいまで馴れてきたのだ。 「それでは、お邪魔します」 スッと脇を通りすぎてさっさと居間へ向かうアヤキを睨みながら僕も居間へと移動する。 まだ、片付いていない部屋に散在している段ボールにストンと腰をかける。 「ずいぶんと片付いていないようね、そこまで荷物は多くないでしょうに」 そう、荷をほどいているのは組み立て式のローテーブルだけ。 「しょうがないだろ、荷物が届いてまだ1時間も経ってないんだ」 荷物が届く予定は昼時だったが実際ここに届いたのは1時間前。 スピードを売りにしている業者とは思えない対応の悪さの白猫業者なんて二度と利用するもんか。 「あとその段ボールに座るなって、中身が潰れっちま・・」 ______パーンッ、 深夜の住宅街に響いたのは銃声と聞き間違えるようなまでの見事な平手打ち・・・ 「ヒシナ君、あなた今私にとてつもなく失礼な言葉を発しようとしなかったかしら。私はとても傷ついたので危うく手を出すところだったわ」 ・・・平手はホント眼が覚める。 「っお前、言ってることとやってることがとてつもなく矛盾しているぞ!」 「そうかしら、あたかもこれを潰しかねないような思惑で聞き取れたから少し熱くなってしまったみたいね。謝るつもりなんてないけれどヒシナ君、そのような発言は女性の前では控えた方がいいかと思うわ」 「言っておきながら足で潰すな、その中には僕の・・・っておい!」 四角い段ボールがひしゃげた台形になっちまた。 「・・・そもそもお前は何をしに来たってんだ!」 足を退かしこちらに向き直って一言。 「忘れたとは言わせないけれどもヒシナ君の中身の無い飾りだけの頭で覚えていろという方が難解ね。」 余計な御世話だ。 「だから、もう一度言うけれどもねヒシナ君。私あなたの腕が食べたいわ」 なんて物騒なことを悠々を言いのけやがった。
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